第13話
株式会社が病院を経営すると、儲けることしかやらないのか
天野牧男
小泉内閣の構造改革のポイントは、民間で出来るものは民間でやるであり、それだからこそ、諸手を上げて支持しています。ところが今度の経済特区の制定であきれたことは、病院の経営を株式会社とすると、儲けることばっかり考えて、きちんとした診療をしなくなると、こともあろうに厚生労働大臣が発言していたことです。
この大臣の前身は医者だそうでありますが、少なくとも衆議院議員ともなり、大臣ともなる人が、株式会社の本質を知らないのには驚きました。こういう人は商人というのは人をだますことばかり考えていると思っているのではないかと思います。勿論どこの社会にも色々な人は居るもので悪い商人も居るでしょうが、悪い代議士も居ます。全体的に見れば、商人ほど正直なものは居ません。というのは商人がごまかしたり、いい加減なことばっかり言っていたら、誰も相手にしてくれなくなってしまって、結局商人ではおられなくなるからです。これは江戸時代から既に言われて来ていることです。
株式会社は勿論利益を求めて経営します。利益が出なければ倒産して、その仕事が続けられなくなることは当然です。また企業の社会的責任を取れなくなることを意味します。此処が大切なのですが、今の世の中で、自分だけうまいことをして儲けるだけ儲けるという態度で、経営がやっていけると思っているのでしょうか。先ず儲けるためには何をしなければならないかが問題です。企業活動に何がいるかということは、特に20世紀の後半に明らかになってきました。先ずきちんとしたものを造らなければ、買っていただけません。戦前のように、安かろう悪かろうの時代は過ぎました。品質のしっかりしたものを作らなければ売れませんし、価格も競争力のあるレベルで提示しなければ、競争相手にやられてしますだけであります。
今企業倫理についての論議が高まってきていますが、これもそれをきちんと守らないと、それはその企業にとって、存立の問題にさえなります。最近の食品工業の事件や、電力会社のキズの隠匿などが、その企業にとってどれだけきびしいダメッジを与えたかは、周知のことです。
こういった事件を起こした企業は、先ず例外なく報告がトップに上がっていませんでした。このことはまた企業の社会的な責任を果たす面でも問題であります。トップに正確な情報が上がらないことで、一番問題が生じるのは、その企業そのものです。今の時代に企業が長期にわたって業績を上げ、健全な経営を維持していくためには、正しい報告を出さなかったり、製品の品質を偽ったりすることなく、企業としての社会的責任を果たすことが必要です。勿論こういった問題になることをした企業は目立ちますが、ほとんどの企業はきちんとやっているのです。
戦後の日本の産業が飛躍的に成長し、わが国の今日の地位が打ち立てられたのは、この国で作られる製品の質が良く、良いのに価格が安く納期が確実であったことは、周知のはずです。品質のいいものを造ることが、コストを下げ、納期を確実にあるいは短納期で完成する事に繋がるということが、本当に製造に真剣に取り組んだ人には当然のこのことが、かなりの権威と思われる人に、理解されていないのが驚きです。
実はこの基本的なことのの理解があるかないかが、役所の人達が民間の活動に対する考え方を決める重要な要素になるのです。株式会社で病院を経営する時、儲かることばかり考えると言われたのですが、経営ですから当然利益が必要です。しかしその病院が利益を出すにはどうしなければいけないかです。先ず信頼のおける、技量のある医師が必要です。看護士も気持ちよく、しかし能率よく働いてくれなければなりません。病室もきちんとして清潔でなければなりません。何よりも5分か10分の診察に1時間も2時間も待たされ、更に薬を受け取るのと診療費の支払いとにまた1時間以上待たせる今の病院の体制では,いい経営は出来ないでしょう。経営に練達した専門家の導入が待たれるところです。
今の自由経済社会のいいところは、きちんとするべきことをすれば、利益は出ますが、やるべき事を怠れば、患者は来なくなり、経営は破綻し倒産という結果が待っています。
それとこの厚生労働大臣の発言にはっきりクレームをつけない、今の経済界はどうなっているのでしょうか。今日3月17日の日本経済新聞によると、経団連の奥田会長は「医療への株式会社参入への反対など既得権を守ろうとする風潮」という上をなでただけの懸念を表明されたようです。もっと基本になる、株式会社というものの本質の理解を求めないような経団連の会長では困ったものだと思います。