原子力発電反対の風潮の広がりを愁う 

第18話  逃げることなかれ

 

                                      天野牧男

 

原子力発電に反対する人たちの、何故反対するかの声の第一はその人たちの声を聞かないというところにあります。

最近のサンデー毎日に出ていた、元東京大学教授の茂木清美氏の記事にも「意見を聞こうとしない電力会社」という言葉がありました。茂木教授のご意見はどう見ても理解できるものではありませんし、恐らく伺いに行っても一方的にやられて、対話にはならないかもしれませんが、意見を聞かないと思わせることにも問題があります。

同様な意見は方々で聞かれます。もうかなり前になりますが、グリーンピースの事務所を訪問しました。何故原子力反対のキャンペーンをするのかその理由を直接聞きたかったからです。この訪問は2回おこないましたが、彼らからはっきりした何故原子力発電をやめろというのかという理由を聞き出すことは出来ませんでした。地球をグリーンに保つために、原子力に代わるものがあるという説明も出てきませんでした。ただ彼らが言うのは、電力会社でも、役所関係にも会って話を聞きたいと申し入れても、ほとんどの場合門前払いで、話が聞けないというのが一番大きい不満でした。

 

昨年「週刊金曜日」の記者がインタビューを筆者に申し入れてきました。原子炉圧力容器のアンダークラッド・クラッキングについて話を聞きたいというのです。我々がこのエネルギー問題に発言する会を作って、原子力発電に関し正確な情報を、発信しようとしていた事もあったので、この申し込みを受けました。このインタビューの時も電力会社へ行っても、役所へ行っても受け付けてくれなかったと言っていました。

このインタビューで筆者は知っているかぎり、その通りの話をしました。このアンダークラッド・クラキングは昭和45年にドイツで発見された、ステンレス鋼の肉盛溶接の下に発生する可能性がある、微小なひび割れですが、発見されると直ぐ、国際的な共同検討がなされ、圧力容器の安全性には全く問題がないことが明らかになったものです。このクラックの発生のメカニズムや、原因、運転中の安全えの影響など、克明に研究され調べられ、世界中から集まった専門家達によって確認されました。その結果は取りまとめ担当であったアメリカの、最も権威のある技術協会の機関紙に発表されました。この結果こういった技術的な問題が発生した時、国際的に共同して検討し、周知を集めた意見がまとめられ、機器などの信頼性を非常に高める事が出来ました。

このインタビューから1ヶ月ぐらいした頃、筆者の所へ週刊金曜日が送られてきました。開いてみて驚きました。「スクープ」「まだ隠されていた欠陥原発」「福島第一原子力発電所1号炉などの原子力圧力容器が、製造当初からひび割れしていた可能性が本誌の取材であきらかになった。圧力容器は、貯めた水の中でウラン燃料が核分裂反応を起こしている、原発の心臓部。炉心が溶けて放射性物質が飛び散るなど、極めて深刻な事故に結びつく欠陥だと指摘する専門家もいる」。この「まだ隠されていた欠陥原発」のところは大きく白抜きで、見る人にまた何か原子力発電所でしでかしたかと思わせるのに十分なものでした。

さらに本文では、筆者の発言の後に、「ひび割れがあると脆性破壊が起きる可能性がある。脆性破壊が起きると、原子炉内の水が外に噴出し、炉内の核燃料がどんどん高温となり、炉心が溶け始める。そうなると、手の施しようがありません。放射性物質が大量に放出される、最も恐ろしい事故につながります」というような説明が続いていました。

先ほどの国際会議で、世界中の権威者が集まって、たとえひび割れがあってもそれが進展する事はなく、脆性破壊になるような恐れは全くないという結論が出ている事を、インタビューの時でもはっきり話をしたにもかかわらず、こういった話にすり変えてしまっています。

これに対しては直ちに抗議をHPで行いました。その筆者の抗議にはきちんとした返事をしないで、先方からはさらに、「週刊金曜日」で1回、「世界」で1回アンダークラッド・クラッキングに問題があるという記事が出されました。こちらからの「このクラッキングが原因になって脆性破壊が起こるというなら、理論的にその筋道を説明すべきだ」という問いかけには一切回答しないでです。

週刊金曜日の記者に次のような一文を送りました。「こういったことが週刊金曜日の狙っているところであるならば、それにうまうまとのって話に応じた私が全くの間抜けであって、こちらの善意が裏切られたと言わざるをえません。役所、電力、メーカーなどの広報が、あなたの取材申し込みに応じなかったといっておられますが、これは私の全くの推測ですが、こうなって見ますと、貴誌に利用されるだけだと承知しているからのように思われます」。これに対しても先方からは何の返事もありませんでした。

しかしこのやり取りをやったことで、この人たちの大きな声で言っていることがいかにいい加減なものであるか良く分りました。今我々が建設し運転されている原子力発電所には、はっきりした根拠と実績とがあります。小さな問題は出るでしょうが、総合的に見て、これからの我々の生活を支えてくれるものはこの原子力発電所をおいてありません。例え少々のことがあっても、自信を持ってきちんと対応することが必要だと思っています。

 

原子力に反対するグループやマスコミに対して、厄介でも下手に利用される事になっても、出来るだけ対応するべきではないかと考えています。このことは国の機関にも、電力会社にも、メーカー等にも総て必要な事であると思っております。