原子力発電反対の風潮の広がりを愁う

20話  福島県知事への質問状   プルサーマルを何故認めないのか (続) 

エネルギー問題に発言する会
天野 牧男               

この第19話で福島県知事に送った質問状を「プルサーマルを何故認めないか」を紹介しましたが、福島県から二人の参事の連名で回答が来ました。4ページにわたる長文のもので、福島県の原子力に対する従来の対応を説明され、昨年の東電の不正問題から、国の原子力政策、安全確保にかかわる基本的な体制、体質そのもののあり方が問われるようになり、これがプルサーマル計画に対する従来の事前了解を白紙撤回する理由であると述べられてありました。この第20話は、それに対する再度の質問であります。

ご回答に対する御礼と、ご再考のお願い                                    

 早速にもお二人の参事の方、お名前を頂戴いただけないのは残念ですが、ご懇篤なご返事を頂戴し有難うございました。かねてから貴県は原子力の問題に対し、非常に真剣な対応をしていらっしゃる事は承知いたしておりましたが、今回のご返事でも、その態度がうかがわれ、真摯な地方行政の遂行、また原子力の問題に対する、入念なご対応に、深い敬意を表させていただきたく存じます。

 

 頂戴いたしましたご回答には、貴県が対応して来れれた、原子力発電所についての各種の問題点についてふれておられ、貴県のエネルギー政策検討会「中間取りまとめ」について述べておられます。 そして貴書簡は最後に「当県は10基の原子炉を有するわが国有数の電源立地県でありますが、国がこれ等の疑問点等について十分な議論や適切な政策評価を行わないまま、核燃料サイクルを強引に推進することは、近い将来、深刻な問題を招き、原子力発電そのものにも、ひいては電源立地地域にも大きな影響を与えかねないものと危惧しております」と結んでおられます。

 

 これは貴県に存在する原子力発電所ではプルサーマル燃料の使用を認めないという、佐藤知事のご決断の理由を述べられたものと判断いたしますが、ほぼ従来からの説明の繰り返しであり、現在6基の原子力発電所が運転されている現状を見ましても、何か相当無理のあるご返事のように伺われます。今これ等の発電所の運転を認めていらっしゃるというのは、基本的に東京電力が保有する発電所が、十分安全に運転できるものとご認識なさっておられるからだと考えますし、そのご判断は全く正しいと考えます。

 

 福島第一原子力発電所1号機が昭和45年に発電を開始して以来今日まで、両発電所において各種の問題があったことは、お説の通りであります。特に昨年の1号機格納容器の漏洩試験でのごまかしや、シュラウドのひび割れを報告しなかったなどの問題は、決してゆるがせにしていいものではありません。しかしこの発電所で起きた総ての技術的問題で、国際事象評価尺度では異常な事象に分類される2はありませんし、1も私の知る限りではないと思います。しかし大切なのはこういった、事象があったときの対応です。昨年の東電事件は原子力発電に対する信頼性を失ったといわれていますが、この事で各発電所の問題点に対する、公開の徹底と、その解明、改善の努力は遥かに高度なものになっています。

 

 人間というものは、失敗から逃れる事は不可能です。かっては医療ミスなど、ほとんど表に出たことはありませんでしたが、昨年は医療事故・事件として届けられたものだけで248件あったという記事が最近ありました。更にこういった事件にならない医療ミスは年間15万件以上という報告もありました。昔それが無かったのではなく、隠されていただけです。医療の質を改善するには、この小さいミスを、克明に洗い出して、検討し、問題点を改善する事です。こういったことは、他の総ての分野でも避けられない事であります。

 

十分ご承知のことでありますが、大きな失敗をしないためには、小さい問題でも大事にして、この段階で現状の改善を図ることです。小さい問題を大切にして、隠すことなく明らかにして対応する。これをきちんとする体制が必要ですが、昨年の東電事件はその大切さをいやというほど教えてくれました。この教訓を受けた、東京電力の信頼性は、遥かに高いものになったと思います。軽水炉の発電所で起こった最悪の事故は、アメリカのスリーマイル・アイランドの炉心溶融ですが、この事故を経験し、EPRIが電力会社を集めて作ったINPOでの検討が行われた結果、発電所の安全性は飛躍的に改善されました。

 

話は少し変わりますが、戦後わが国の産業界の努力で,世界第二位の経済大国になることが出来ました。また技術の面でも先頭集団に入ってきました。資源を持たない日本が、資源に大きな不安を持つ21世紀に、今のレベルの経済力を保つためには、高い水準の技術を継続的に開発していくことが最も大切です。戦後の日本は欧米の技術を学んで、それを身につけることで、ここまで来れました。しかしもう学ぶべき技術がなくなった今、自ら開発しなければなりません。自ら開発すれば、恐らく幾つかの失敗をするでしょう。失敗無しで開発が出来るほどの能力を、人類は持っていません。失敗を糧として次の自分達を作るしか、前進の手だては無いのです。何回失敗すれば気が済むのかと言われるかもしれませんが、数多いかもしれない小さい失敗を、一つづつ、十分な検討を重ねる事が大切です。

 

プルサーマルの実行につきましては、平成10年に事前了解を頂いたということは、MOX燃料燃焼について、十分ご理解いただいたものと認識しております。このMOX燃焼は、当時と現在とは全く同様な技術であります。技術の内容が変わらないのに、前は良かったが今は駄目だというのは、あまりにも理論的ではありません。まして東京電力は色々な経験をしたことで、その管理体制は遥かに充実されています。現在わが国にとっても重要なこのMOX燃料の使用は白紙にするというご処置は、わが国の指導的立場にお立ちの、知事のご決断とは如何しても思えません。 

 

 世界のエネルギー情勢はこれから益々難しい問題を迎えます。また環境の維持も容易ではありません。これには今の原子力発電所の円滑な運転と、プルサーマルの実行、更に高速増殖炉の完成などが、極めて重要になります。わが国で最も沢山の原子力発電所を保有している県の一つとして、是非こういった問題を貴県だけのことしないで、より広い見地でのご判断をお願いしたいところであります。またこのことは、あえて申し上げますと、数多くの原子力発電を持ち、幾つもの経験を所有しておられる、貴県の社会的な責任でもあると考えるものであります。重ねてご再考をお願いいたします。