第6話
原子力発電にフレンドリーでない団体の系譜
エネルギー問題に発言する会
天野牧男
今世界的に原子力発電に対する反対運動が激しく行われていて、特に最近その勢いを増しているようにさえ思われます。ドイツでは緑の党が与党の一員になったため、それへの慮りのためか、新規の発電所の建設をしないばかりか、現在運転中のプラントも、ある期間が経ったら、廃止するというような計画になったと聞いています。これは非常に大きな問題でありますが、筆者自身こういった反対運動の系譜について殆ど知識がなかったので、取り敢えず2,3の方から情報を伺うとともに、インターネットなどから得られた情報を基にして少し調べてみました。短期間の調査でもあるので、突っ込みも不十分であるし、内容も満足するものではありませんが、兎も角調べた範囲で整理してみました。誤ったところのご指摘や、追加の情報などあったらご教示下さい。それを戴くことがこの話の目的でもあります。
いわゆる反原発を標榜している団体の数は定かではないのと、名前は違っても実質的には同じ団体ではないかと思われるようなのもありますが、我が国の中で先ず50はあるように思われます。ホームページなどで名前をリストアップ出来た団体の数が40を越えました。こういった団体が50もあると、当然ながらその内容も千差万別で、一概に反原発と片付けてしまうと、対処に大きな間違いを起すことになります。
これらの団体の中で、原子力に限らず世の中のいろいろな問題に対する反対運動を行っている団体があり、大体環境団体と言われるような形態のものがそうであります。グリーンピースもこの系列かと思われますが、日本ではグリーンピースジャパンとしてNGOにも登録されています。このジャンルには「気候ネットワーク」とか「ネットワーク『地球村』」などがあるように思われます。「ネットワーク『地球村』」という団体は、かなり大きな団体で環境NGOとなっていて、会員数は少し前のホームページにでしたが、119,500で毎月5000名ぐらい増えていると発表していました。基本的には地球村の環境をエネルギーの消費を抑えてでも守ろうとするものであるようですが、ドイツのフライブルグ市での原子力計画を止めさせた話がHPに載せられており、止めさせた原因は原発が危険だからとしています。
この第一のグループは原子力発電所には反対でありますが、全体として環境の維持改善をその目標としており、その限りにおいては、全く我々の望むところと同一であります。しかしこのグループもいろいろな提案をしていますが、21世紀のエネルギーの安定供給の確保と、環境の維持、特に炭酸ガスの削減を、特に運輸関係の発生炭酸ガス削減の目処がまだ立たないどころか大幅な増加が予定されているような中で、人類が生存を維持していけるだけの環境を作り出す決定的な方策を打ち出しているところはありません。そして極めて残念な事でありますが、原子力発電は環境に対し最強の応援技術であるのに、その理解が得られていません。これへの対応が非常に重要であります。
第二のグループは原子力資料情報室を代表とするもので、精密に原子力の問題点を調べ上げ、かなり正確な情報を把握している団体であります。この原子力資料室などはかなり正しく問題を見ているように思われます。唯それだけ技術を理解しているのに、何故この技術を人類にとって多くの問題を解決してくれるものとして、生かすことに努力してくれないかがわかりませんし、又残念でもあります。
問題なのは第三のグループであります。今一番原子力発電所の建設や、新しい技術の採用の阻害行為となるのが、その発電所のある地域の住民投票であります。先日の刈羽村のプルサーマルの可否を、村民の投票にかけることになって、こういった純技術的なしかも原子力の製作に関わる問題が、実質的に住民の判断で決められてしまうという、極めておかしな事例が作られてしまいました。これは今後の原子力発電の建設や問題が起きた時の解決に大きな障害になる恐れがあります。
この流れが三重県海山町での原子力発電の誘致に対する、住民投票でもありました。これには幾つかの団体が反対運動を行い、2対1の割合で反対派が勝ったのでありますが、その中の一派が海山町の人々へ配布した、反対運動をあおる文章の酷さに唖然とさせられました。彼らのホームページに乗っていたアジビラの一部をここに紹介してみましょう。
『(前略) ほとんどの国において、げんぱつも原爆も同じ単語で総称されます。そしてげんぱつも原爆も同じ意図において発祥してきました。最近のテロに絡んで、「げんぱつを軍隊が守れないような国はほかにはない」というセリフをTVで聞きましたが、それもどうり、げんぱつは軍事核の直接的。間接的な製造。実験工場だったからです。確かに、原発は軍隊が守らなければならないほど、危険なものです。
そして、原発ほど社会の暗部を背負っているものはありません。(中略)
この世の、ありとあらゆる愚かなもの、汚いもの、そして悲しいものが、原発に集約されています。(後略)』
こういった滅茶苦茶な文章をばら撒いて、人々を誑かせ重要な判断を誤った方向に誘導して行った事は、国民、人類に対する大きな犯罪行為であり罪悪であるといってもいいのではないでしょうか。またどういった人がこれを、どういった意図で書いたかがよくわかりませんが、このアジビラは変に仮名を使っていますのに誤字がない文書であります。どうもそういい加減な教育を受けた人が書いたとも思えません。しかし教育を受けた人としては内容が酷すぎます。現在我が国には、残念ながらこういった虚偽の発言をする事で、反国家的なまた国民にとって有害になる行動を咎める法律がありません。
これほど酷い文章は目にしていませんが、地方の反原発運動グループにはこういった傾向が、大なり小なりあります。
我々のこれら原子力発電にフレンドリーでない人達との対応でありますが、第一の環境を守ろうとするグループには、我々の意図するところも、その人達と同く世界の環境を守るところにある事を分かってもらう必要があります。冷静に考えれば、この深刻な世界の環境問題に強い対応策を取れるのは、原子力しかないという事を理解してもらうことが大切だと思います。また原子力に対し問題があると思うならそれがどういうことか、意見を出してもらい、話し合うことで解決に努めたいと考えます。これからの地球環境にとって原子力は白馬のしかも唯一人の白馬の騎士なのです。この事は勿論そう簡単に受け入れるとは思えません。粘り強い働きかけが必要でしょう。
第二の比較的事実を調査し、原子力発電の問題点を調べていこうとしているところには、基本的に情報公開し、技術交流する方向が必要なように思われます。この分類の人達が、原子力発電所の問題点を指摘しているのはいいのですが、原子力発電所を廃止にとする主張からの議論はやはり問題です。誤った考え方に対する指摘は必要です。
第三のグループに対しては、彼らの運動の目的、狙いが知りたいと思っています。何故こんなとんでもない事を言って、国にとっても我々市民とっても重要なクリーンで安全な電力源を潰そうとするのか知りたい。そしてこれらのグループの活動がどういった内容の酷いものであるかを住民の人達に理解してもらう必要がありますが、これが一番大変です。それには投票の行われる、村や町に入り込んで一軒一軒を訪問し、分かりやすく説明して、その家庭の主婦の理解を得るぐらいのことが必要でしょう。
往々にしてこういった反対運動は何かの権力争いとか、利益の誘導のために使われている傾向があります。若しそういったことがあるとすれば、それだけのために、国にとって、国民にとって、更には世界にとって絶大な損失をみすみす許す事になります。これを許容しない態度が必要だと考えます。