西日本新聞の社説に反論する  

                     エネルギー問題に発言する会  林 勉

                     平成14年7月6日

 

 東京在住なので、日頃目にしない西日本新聞が知人より送られてきた。これは「エネルギー問題に発言する会を発足させた反響らしい。社説(5月31日)を見て、唖然とした。

「リスクを前提に見直せ、原発安全対策」というタイトルで浜岡2号機の水漏れトラブルを取り上げ、原子力発電所全般に対する安全対策の見直しを求める内容になっている。

この論理の展開には非常に大きな飛躍があり、かつその論点の根拠としている点についても重要な事実認識の誤りがある。学問的にも技術的にも誤認をもとに社説が書かれている。

以下にその幾つかについて指摘する。

 

 この社説の要旨は以下の通りである。

 

 「昨年の浜岡1号機の配管破断などの事故に続き、今度は2号機で、やはリECCS関係の配管から放射能を含む冷却水が漏れるトラブルが発生した。浜岡原発は1,2号機ともに運転開始から4半世紀を経ており、わが国では今後、同様に耐用年数(3040)に近づく原発が相次ぐ。今回の事故は、古い原発で、いつ、どんなトラブルが発生するか分からない、という不安を広げたといえる。事故やトラブルが絶えない中で、電力会社などが「安全」を強調すればするほど、原発への疑念が深まっているのが実情だ。巨大な複雑システムである原発の潜在的危険性を正しく把握し、常に危機感をもって保守・点検、防災体制に当たることだ。 原発のリスク情報を公開し、いつでも市民の疑問にこたえ、対話する姿勢がなければ、原発への信頼回復は生まれないだろう。」

 

 

(1) 浜岡2号機水漏れトラブルは、弁に設けられた水抜き用の1インチという細径の配管のソケット溶接部からの漏れである。通常はこのように細い配管では、水漏れがあっても安全上の大きなトラブルになることは無い。社説で言うところのリスクには該当しない。また水漏れは事前の水圧漏洩試験ではなかったが、プラント立ち上げ中にパトロール員が発見したものであり、この経過は水漏れを発見、管理するシステムが正常に稼動したことを示している。従って取りたてて大騒ぎするような内容ではない。

(2) 社説で「古い原発では(老朽化し、)いつ、どんなトラブルが発生するか分からないという不安を広げた。」としている。しかし現実は老朽化ということには該当しない。原子力発電所では過去のトラブをから学び、必要により新しい技術開発を行い、その結果を古いプラントに適用するなど対策を着実に進めている。対策を実施することにより、古いプラントでもかなりの部分が新しくなっており、老朽化という概念で論じることは出来ない。この点を充分に認識してもらいたい。

(3) 社説では「リスク情報を公開し、信頼回復に努めよ。」と言っている。社説で言おうとしているリスク情報とは今回のような細径配管の問題点等も含めてのようであるが、判然としない。こんな情報を公開してどうして信頼回復に結びつくというのか。原子力でいうリスクとは安全上の重大な結果をもたらす可能性のある事象を対象としているのであって、これらについては原子力発電所の安全評価がなされており、その結果については公開されている。

原子力発電に限らず、全ての技術にはトラブルが起こる可能性は否定できないが、それが大きなリスクに結びつかないよう、それぞれの分野で対策を取っているのである。原子力ではそのスタート時点からこの考え方を基礎に開発を進めてきた。今回の少径管からの水漏れでどのようなリスクがあったというのであろうか。冷却材の喪失事故に至る可能性は全くないし、放射能の外部への漏洩防止についても充分な考慮が払われている。もう一つ大事なことは、トラブルを経験した時に、当該プラントはもとより、類似トラブルの可能性がある全てのプラントに対して、その対策をきちんとすることである。この点でも原子力発電所は最も徹底して行われている分野であると確信している。これらの諸施策を着実に実行していき、原子力発電所の安全な運転実績を積み上げていくことこそが、信頼向上に結びつくと考える。

 

 今回の社説は以上に指摘したような事項には一切考慮せず、一方的に不安を煽る内容になっている。このような検討不充分な記事が社説として採用されていることに唖然とした次第である。一般の読者に与えるインパクトを考慮し、きちんとした記事を心掛けてほしいものである。

 

 我々「エネルギー問題に発言する会」(ホームページ:http://www.engy-sqr.com)ではエネルギー問題、とりわけ原子力問題についての正しい認識を世の中に広めていきたいと考えています。