原子力発電は本当に必要か?――必要だ
林 勉
今回の東電問題で、東電が多くの原子力発電所を停止しても電力は休止火力発電所の立ち上げでなんとか停電せずに対応できているではないか。したがって原子力は本来なくても大丈夫。という議論が散見されるがやや短絡した議論のように思う。
この議論で欠落していると思われる点を以下に示す。
(1)東電は電力供給責任を果たすために、なりふり構わずに対策をしているのが、実情であると思う。今まで長期に停止していた火力プラントを立ち上げるためには、その緊急補修、運転要員対策も大変なことだ。また休止プラントの立ち上げだけでは足りずに、他電力からの供給も受けてしのぐことになると思われる。また東電はこれら全ての対策をやっても電力供給不足の事態になりうることも考慮して、新聞広告で国民に節電を呼びかけている。これ等は全て発電コストアップにつながり、そのつけは電気料金に跳ね返ってくる。これらは当面の緊急対策としてやっているのであって、恒久対策にはなりえない。当面の点検が完了すれば、すみやかに原子力発電所を立ち上げることになろう。
(2)原子力発電は火力発電に比較して、建設費は高いが、燃料費が安いという特質がある。100万KW級の発電所を原子力の替わりに、火力で運転すると1日あたり、約1億円の損失がでると言われている。100万KW級原子力発電所が10基近く停止する事態にでもなれば、1日10億近くの損失になる。この状態が1年も続いたら莫大な損失になり、このつけも全て最終的には電気料金に跳ね返ってくる。
(3)1次エネルギーの約15%、電力供給量の30%以上を占める原子力を不要として放棄した場合、この代替エネルギーをどこから持ってくるのだろうか?太陽光や風力による発電も当面の大量エネルギー対策にはなりえないし、将来的にもたいした役割は期待できない。節電も有効であろうが限界があり、とても15%には対応できない。従ってオイル依存を拡大するしかないと思われる。この対策は緊急的には可能かもしれないが、継続的に取れる対策ではないと思われる。現在でも脆弱な日本のエネルギー供給源の更なる脆弱化をまねくことになる。ひいては日本の政治、経済の脆弱化を招くことになると思う。原子力がここまで成長してきたからこそ、日本の1次エネルギーの石油依存度を軽減してこれたのだ。この長年にわたる努力の成果を今回の状況のみの短視眼的判断で無にしても良いということには到底なりえないと思う。
(4)原子力の平和的な大量利用は、熱に変換して電力を生み出すしかできないだ。一方オイル、ガス等は燃やすのは全く勿体無い使い方であり、地球資源の有効利用という観点からすれば、他の用途にまわすべきであろう。
(5)環境問題、地球温暖化問題でも原子力は他の電源に比較して、はるかにクリーンであることは明らかだ。
以上述べてきたように、原子力の必要性は明白であると思います。今回の問題で原子力は不要であるという議論ではなく、むしろその必要性を真剣に議論すべきであると思う。