北陸電力、志賀1号機の「臨界問題」を考える

平成19年3月26日

エネルギー問題に発言する会、代表幹事、 林 勉

 

今回の北陸電力、志賀1号機の「臨界問題」について、多くの方はチエルノブイリやJCOの臨界事故を想起して大変なことが起こったということで、原子力の安全性に多大な不安を抱いてしまったというのが実態だと思います。そして前掲の事故は特殊な例で、私達のやっている軽水炉では発生しないという説明も空文化してしまう可能性も持っています。従って、「臨界」という問題自身についてもっと明確に何が重要で何が本当に問題かということを伝える必要があると思います。この点について私の考えを以下に示します。

1.「原子炉の臨界」という現象自体は原子炉の運転中は常に起こっていることである。原子炉の運転中はこの「臨界状態」を管理された状態で維持しているのに対して、今回の「臨界問題」は意図していない、状況で発生してしまったことに問題がある。しかしその後の経緯は軽水炉の持つ自己制御性により、連鎖反応は非常に低いレベルで維持され、機器の損傷や放射線問題も引き起こさなかったことは、軽水炉の持つ本質的安全性を実証したともいえる。

 

2.チェルノブイリの場合は低出力での調整運転中に、この炉の特性である正の反応度領域に入ってしまい、「超臨界状態」になり、管理できない状況になり、熱出力の急増による、炉心溶融、過大な圧力上昇を引き起こし、爆発的に圧力容器を破壊し、大気に放射性物質を放散させてしまったという事故であった。臨界状況に歯止めをかける炉心設計上の問題があったといえる。

 

3.JCOでは警報上も設備上も臨界を想定していない設備で、かつ、作業者に対する「臨界問題」への教育、作業指示等が不十分な状況下で、誤った作業により、「臨界事故」を引き起こしてしまったものである。このため臨界に伴う高放射線で作業者が高い線量で被爆する事態となり、外部への放射線漏洩も発生した。

 

4.同じ「臨界問題」でありながら今回は付随して発生する問題が一切発生していないのは何故だろうか。これには以下の2点が指摘できる。

(1)第1項で指摘した、軽水炉の持つ自己制御性により、臨界状態であっても非常に低いレベルに維持され、問題を発生させなかった。この自己制御性とはどういうものであろうか。臨界状態になり、原子燃料の温度が上昇するとウラン238の中性子を吸収する能力が高まり核分裂に有効に働く中性子が減少(ドップラー効果)する。また燃料周辺の冷却材(水)が温度上昇したり、場合によってはボイドも発生することにより、中性子の減速能力が落ち、核反応を抑制するように働く。これらの相乗効果が自己制御性といわれるものであり、今回の事故ではこれらが有効に働いた事例といえる。

(2)今回のトラブルは水が充満した圧力容器のなかの炉心部で発生した。この部分はもともと運転中は高いレベルの「臨界状態」が保たれているところであり、高い放射線に対しても、万全の遮蔽対策がなされており、今回のような「意図しない臨界」が発生しても放射線問題は一切発生しなかった。

 

5.今回のような「臨界問題」はあってはならないことであることはいうまでもない。運転中は勿論、炉を停止し点検を行っている場合も臨界にならないよう、設計上も運転管理上も十分な注意を行うよう配慮されているが、点検中は自動運転だけで総ての操作を行う訳にはいかないところがあり、そこに操作ミスが入り込む余地ができてしまう。しかし人間のすることであり、このようなトラブルを”0”にすることはできないことも想定しなければならない。今回のトラブルを契機に関係者は猛反省し、徹底的な原因究明と再発防止対策に取り組み、ミスを最小に止めることができる対策を立てることが求められる。この点でも今回の事故は大きな教訓を残したといえる。

以上