米国デービス・ベッセ炉の腐食問題について
H14.3.31
石井 亨 石川迪夫氏から原子炉圧力容器の上蓋の腐食状況の概要と共に二、三の問題提起がされましたが、小生もNucleonics
Week誌に加えNRC情報もフォローしておりますが思いもしない事ばかりでした。 一つは硼酸による腐食でこれほどまでに大きな空洞部(深さ約15cm、幅約10〜13cm、長さ約15cm)が生じ又この空洞部の底は圧力容器上蓋内面のステンレス・クラッド(厚さ約10mm)だけが皮1枚の状態で残っていたことです。
従来から炭素鋼は硼酸には非常に弱いと言うことは我々技術者にとっての常識であり又NRCもこれまでに炭素鋼の硼酸腐食問題について多くの注意喚起をしております。 デービス・ベッセ炉の腐食問題に関する最新のレポートでは制御棒駆動機構用のノズルの割れ目から1次冷却水が漏れだしたのは6年から8年前ではないかと推定しています。
即ちこの頃から当該部に硼酸が蓄積し腐食が始まったとすれば、これ位の腐食が生じるのは当然かと思いますが、それにしてもあらためて硼酸による腐食のすごさを再認識する事例です。なお皮1枚残ったステンレス・クラッド(厚さ約10mm)が本当に約150気圧の圧力に耐えられるかとの疑問ですが、周囲全てが固定されていれば塑性域になりますが強度的には何とか耐えられるもののようです。(決して望ましいものではありませんが実力評価として) 二つ目は前述したように炭素鋼は硼酸腐食に弱いことが常識であるにも拘わらず硼酸の蓄積が放置されていたデービス・ベッセ炉での保守の杜撰さです。
4年前から硼酸の蓄積は認められていたにも拘わらず、場所的に困難とは言えそれを完全に除去しないままに過ぎていたようです。危機認識に甘さがあったと言わざるを得ません。 翻って国内PWRでの保全状況を見てみますと、先ず硼酸漏洩についてはユーザもメーカも細心の注意を払って定検ごとに原子炉圧力容器の上蓋を始めとする機器配管類の目視検査と漏洩試験を実施しています。なお硼酸が漏洩していると白く硼酸が析出しているので容易に見つけることが出来ます。 さて今回の問題の根源である制御棒駆動機構用ノズルの応力腐食割れ(SCC)ですが、これは1991年フランスのブジェ3号で初めて経験されたものであり、その直後から各国(米、仏、日)は割れ欠陥の早期検知、割れ発生の防止策(原子炉圧力容器上蓋頂部の温度低減)などの開発と実機への展開を図ると共に根本的な方法としての原子炉圧力容器上蓋取替計画も進めてきました。
特に日本の電力会社は原子炉圧力容器上蓋取替に積極的に取り組み、応力腐食割れ(SCC)発生の懸念を払拭しています。(1997.4発行のNRC GL 97-01で「日本では割れが検知されていないにも拘わらず、上蓋の取替に入った」と報じています)
最近でこそ米国でも多くのプラントで取替計画が進んでいますが、これは軽水炉の世界で日本が主導性を発揮した良好事例の一つであり、その先見性は誇りにしても良いと思います。
もっともこの電力会社の英断には蒸気発生器取替の教訓即ち取替は原子力発電所の安全性・信頼性を高めたと世間一般から好意的に受け止めてくれた事も大きく寄与したのではないでしょうか。
以上
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