水素エコノミー(社会)雑感

                                      2004年3月

 伊藤 睦

 

先の資源エネルギー庁の2030年のエネルギー情勢についての意見募集でも述べたが、未来にわたり世界・人類が発展を継続していくためには、社会が現状の化石エネルギー資源に頼っていることから、基本的に化石資源に頼らないエネルギー源への移行がなされなければならない。石油や天然ガスなどの化石資源に代わるエネルギーキャリアとして、電力以外に、水素は本質的にクリーンで、どこでも生産可能で、貯蔵・輸送ができ、家庭用、産業用どこでも広く使用出来るので、本質的に化石エネルギー資源に取って代わり得るものである。 {参考:水素エコノミー(エネルギー・ウエッブの時代)Jeremy Rifkin 柴田裕之訳 NHK出版}

 

原子力はその一つの選択肢であることは間違いないし、技術的にはその可能性はすでに確かなものとなっている。

ただ、現状の発電主体の原子力利用だけでは、エネルギー消費の大半を占める、輸送用エネルギー(自動車、飛行機、船舶)を考慮すれば、基本的に化石エネルギー資源に取って代われるとは思えない。

 

世界各国は独自または共同で(日本ではWE−NETの名称)水素利用技術の研究・開発が進められているようであるが、最近米国はDOEがそのR&D・DのROAD MAPを発表した。(HYDROGEN POSTUR PLAN  February 20004 US DOE)

そのロードマップによれば、PHASE1として2015年まで国の主導で強力にRD&Dを進め、PHASE2で2010年から25年にかけて市場へ導入を進め、PHASE3では2015年から2035年にかけてインフラを整備し市場の拡大を図り、2025年から水素エコノミーの実現を可能ならしめるとしている。

今年1月の原子力学会誌の解説記事で、エネルギー総合工学研究所の福田健三氏が、同じような水素エネルギー導入のロードマップ(試案)を提示しており、わが国が世界の範となる水素戦略とロードマップを作り上げなければならないと結んでいた。

わが国よりはるかに多くの国産のエネルギー資源を持つ米国が、自国のエネルギー消費の海外依存度の拡大に危機感を持ち、国としてこの様な大胆なロードマップいち早く提示していることに、彼我のエネルギー問題に対する認識の違いを感じる。

 

DOEのロードマップの通り、水素社会が実現するにしても水素の大量生産が大きな課題であろう。化石燃料の改質による水素製造は、結局化石燃料に頼ることになり本末転倒である。太陽光、風力、水力などの自然エネルギーは当然最大限活用するとしても、量的に限界がありまた地域も限られるので、これだけでは化石燃料依存からの脱却という本来の目的は達成できない。本質的に化石燃料依存から脱却できる水素社会に、化石燃料を使わずに大量の水素供給を可能とする技術は、唯一原子力の活用だけではないだろうか。

DOEのPLANでは、原子力は水素製造の一つの選択肢としては位置づけられているが、未だこのあたりがあいまいに思える。(色々な水素製造技術を平行に取り上げている。)

 

私は、化石資源が枯渇する将来も、人類が継続的に発展を続けるには、原子力によるエネルギーがその基盤であり、基幹となるエネルギーキャリアは原子力によって作られる、電力と水素であろうと考えるものである。

                                                                  以上