エネルギー問題の解決には原子力は不可欠である

2002年7月1日

「エネルギー問題に発言する会」会員

工学博士　益田恭尚

「電気新聞」(６月２５日号）の「時評」欄に「原発推進はエネ安保のためか」と題し大阪経法大の吉田康彦教授の論文を発表されました。その内容の要旨は。下記のようなものであります。

「先進国で顕在化している脱原発傾向が逆流することはあるまいと思っている。原発はその歴史的使命を終えつつある。民主主義が成熟した現在「市民社会」と大規模国家プロジェクトの原子力発電とは相容れない。原発の安全神話は崩壊し、二度と復活する可能性はない。IAEA事務局長が「地球サミット」で「温暖化対策の決め手はクリーンな原子力で」と訴えたが、各国代表から冷たくあしらわれた。推進派の言う「エネルギー安全保障論」もOAPECの結束力のない現状では影響は一時的、限定的なものであろう。石油備蓄も潤沢であり、石油依存体質は大幅に改善されている。」

私はエネルギー問題を長期的にみた場合、この見解は大きな誤りであると考えここに反論するものであります。

1. エネルギー問題についての基本認識（エネルギーを巡るトリレンマ）

産業革命以来エネルギーの有功活用によって文明は著しい発展を遂げ、人口が急増し、その結果、エネルギー消費量が急激に上昇してきたことは皆様ご承知の通りであります。

反面、地球が有限であるところから、人類が地球環境に大きな影響を及ぼす状況を招き、資源問題と環境問題が大きな問題として提起されるに至りました。地球問題を論ずるには、少なくとも千年先を視野に入れた考察が必要であると考えます。

2. 化石燃料の位置付け

石油の推定埋蔵量は30年以上にわたり後50年と言われ続けてきました。天然ガスを含め、今後当分は新しい発見が続くでありましょう。価格面からいっても経済成長が鈍化している現在、比較的低水準を維持しることも事実です。しかし、石油の市場価格は元来あってなきがごときもので、競合エネルギーである原子力との競争によって価格が維持されているものと考えます。

化石燃料が有限であるとの見方には異存はないでしょうし、資源としても大切な石油を、何時までも燃料として消費し続けることは許されないでしょう。地球環境の面からいっても、地球誕生以来、折角太陽と生物の協調により炭酸ガスを固定化しつつ作り上げた大気を太古の状態に戻してしまって良いはずはないでしょう。

化石燃料の消費量が、今後、アジアを始め開発途上国の急激な生活レベルの向上により加速され、供給面、環境面で影響がでてくることも忘れてはならないでしょう。

3. 長期にわたって頼れるエネルギー源は

このようなことを考えたとき、代替えエネルギーに少しずつでも置き換えていく努力を、できるだけ早く進めなければならないのは自明の理です。科学の進歩で、何時か、新しいエネルギーが開発されるだろうとの幻想を持たれる向きもあろうかと思いますが、化学エネルギーには限度があり、長期に亙って期待できるエネルギーは、質量をエネルギーに変換する原子力（核融合で発生している太陽エネルギーを含む）しかありえないことは、現在の科学の常識です。

太陽は、人類が年間消費するエネルギーの7,500倍のエネルギーを、地球に降り注ぎ、生物の生活環境を整え、食料をも与え続けています。人類はこの恩恵以外にも、化石燃料を利用する以前から、薪、水力・風力として太陽エネルギーを利用してきました。今後一層、太陽エネルギーの有効利用を図ることが望まれることに議論の余地はありません。しかし、如何にせん太陽エネルギーは、水力としての利用を除いては、エネルギー密度が低く大量発電には向かず、将来の技術進歩を見越しても基幹エネルギーとはなりえません（別項参照）。やはり将来は原子力に頼る外ないのであります。

4. 地球規模での長期政策（エネルギー・環境・人口問題・食料問題）の欠如

民主主義は現在考えられる最も優れた政治制度であります。しかし個人個人がある程度の知識レベルを持つことを前提として機能する制度だと考えます。民主主義の名の下に国民が望まないからといって啓蒙もしないで「民主主義が成熟した現在「市民社会」と大規模国家プロジェクトの原子力発電とは相容れない」などといってはいられないのではないでしょうか。教育界、ジャーナリズム、政治家は国家百年(千年と言いたい)の計を考え、国民をリードし教育していく責務があると考えます。

政治家は票に繋がらない政策をやりたがらない。ジャーナリズムは基本的に反体制である上、聴視者が興味のない問題は取り上げたがらない。教育界も社会生活に必要な常識を教えることに熱心でなく、世論に反するような教育は避けるというのが現状でありましょう。社会生活に必要な常識問題の例として、健康問題は日々切実な問題として各人が認識しておりますし、環境問題も目に見えた問題として生活に直結しているためかジャーナリズムで取り上げられることが多く、それなりに教育を受ける機会があります。しかし、エネルギー問題はオイルショックのような切実な不足状態にでも陥らぬ限り生活実感がありません。そしてジャーナリズムで取り上げられることも少なく、一般市民が常識教育を受ける機会が欠如していると言わざるをえません。

確かに、エネルギー問題は湾岸諸国に突発した変化でも起こらない限り、少なくともここ数年は大きな社会問題となる可能性は少ないものと想定されるのでしょう。そのためか、政治家の関心は低く、景気など目先の課題が関心の中心となる結果となっています。しかし、遠からずエネルギー問題が大きな社会問題として浮上したとき、科学技術は急にはそれに答えることはできません。10年20年の歳月を必要とすることを忘れてはならないと思います。

5. 原子力発電の課題と国民の理解に向けて

原子力発電は長期的にみた場合には経済的優位性はあるものの、多額の投資を必要とするところから、自由化の流れの中で、リスク負担を始め短期的視野から不利であることは否めません。他のエネルギー源に比べさらなる経済的優位性の確立が必要でありましょう。

欧米諸国の状況を考察してみますと、現状、電力の伸びが少ない上、他国からの電力供給を受けることができ、天然ガスのパイプ網も完備しつつあります。経済活動が自由経済の原則で動いていることから原子力発電導入がさしせまった問題とはならないのでしょう。しかし、原子力発電は今尚、全世界の電力の約20%を供給しており、反対を唱える国でも原子力発電に頼り続けている事実も忘れてはならないと思います。

近年に至っても原子力発電所のトラブルの報道は後を絶ちませんが、国際的事故レベルの尺度からいえば0クラスで外部への放射能の放出には至らないものが大部分であります。安全から安心へといわれるように分かりやすい原子力発電所を目指すことは今後益々必要であります。しかし、我が国の原子力発電は比較的安定な運転を続けており、最も安全なエネルギーの一つといえるのではないでしょうか。

世界の原子力開発が休止し、新プラント建設技術の成長が止まってしまっている現在、人間の智のエネルギーであり、総合技術である原子力技術を、いかにして維持向上させるかが大きな課題です。世界が再び原子力発電を必要とするとき、日本の役割は誠に大きなものがあると言わざるを得ません。

政治家諸氏の認識向上と、ジャーナリズムの理解、さらに将来エネルギー危機を経験する可能性を秘めた児童生徒へのエネルギー教育が緊急の課題であると考えます。

記者の皆様へ

「エネルギー問題に発言する会」は少しでも多くの方にエネルギー問題を正しく理解していただくことを願い、原子力に携わってきたOBを中心に設立した会です。

多くの方の理解を得るには記者の皆様に正しい報道をして頂くことが最も大切であると考えております。

我々OBは最新の情報には疎いのですが、長年の経験から得た知識は充分持っている積りです。会員の専門分野をしるした名簿を添付しますので、何かお聞きになりたいことがございましたならばお電話下されば、分る範囲で出来るだけ正確にお答えしたいと思います。

本会は純然たるボランティアの会です。会員のプライバシー問題もありますので本名簿を本来の目的以外にはお使いにならないよう切に希望いたします。エネルギー問題についてご意見がありましたならば、別途e-mailで本会事務局宛お寄せ下さい。