核燃料サイクルの早期実現に向けて

平成14年12月6日 

  松永一郎 

 

 東京電力鰍フ自主点検記録不実記載に端を発した原子力発電に対する不信は、福島県および新潟県におけるプルサーマル計画の事前了解の白紙撤回という事態に至りました。このことは2005年7月に操業開始を予定している六ヶ所再処理工場の運転スケジュール、およびそれに続くJ−MOX工場の建設スケジュールに多大な影響をおよぼすであろうことが危惧されています。

 プルサーマルに反対し、六ヶ所再処理工場の運転開始の凍結、ワンススルー路線の選択といった声は、今回の問題が発生する以前から聞こえていました。MOX燃料はウラン燃料に比べて高価なこと、高速増殖炉開発予定が大幅に遅延していること、高レベル廃棄物処理処分方策がはっきりとは決まっていないこと、かてて加えて電力自由化により初期投資が莫大で、不確実なバックエンドをかかえる原子力発電は他の発電方式に比べて競争力に劣るので、これから電力消費量が減っていくであろう日本の少子,高齢化社会には向かないといったところが、彼らの主張する根拠になっています。

 また、京都議定書を批准済みの日本は、二酸化炭素削減のためにそれを殆ど排出しない原子力発電に依存しざるを得ないのですが、環境もエネルギー事情も全く異なるヨーロッパで盛んに行なわれている風力発電や、エネルギー密度の極めて小さい太陽光発電で代替できるといった論調も一部に根強く存在します。

 しかし世界の実状、日本の現状を冷静に観察すれば、今回のようなプルサーマルとは直接関係しないような問題により、いたずらにスケジュールを遅延しても日本にとって得なことは殆どないと思います。

 以下は世界の事情、日本の立場および原子力発電所立地地方自治体/電力会社の立場に関する私の意見です。

 

1.   世界の原子力事情 

この5年の内に世界的に原子力への大回帰が起こります。いや、もう既に始まっています。理由は世界的なエネルギー原料の争奪戦(各国のエネルギー安全保障の確保)と、二酸化炭素の増加による地球の温暖化防止です。

 米国では1990年までは原子力は低迷していましたが、1990年代はじめに規制方式を設備重視型から性能重視型に変更。その結果、故障率の減少と稼働率の向上(60%台→90%)がおこり、安全性と経済性を同時に達成して信頼性が増しました。昨年5月にブッシュ政権になり、「国家エネルギー政策」で原子力推進に転換。主として、エネルギー安全保障上の観点から原子力の位置付けをしています。

 アジアでは中国において、急激な経済成長により化石エネルギーとしての石油、石炭の消費量が大幅に増加中。石炭と石油の輸入国であり、エネルギー安全保障の観点から原子力発電計画を持って発電所を積極的に建設中。その他、エネルギー需要の伸びの著しい韓国、台湾、インドなどが建設中または計画中の原子力発電所をもっており、ベトナム、インドネシアも長期計画を持っています。

ヨーロッパでは基本的には地球温暖化対策としての見方から、原子力へ回帰中。安全と放射性廃棄物問題から脱原子力を目指していたスウェーデン、ドイツ、ベルギーのうちスウェーデンでは現存の原子力発電に替るクリーンエネルギーが見つからず、廃炉計画を先延ばし。原子力存続派が多数を占めるようになりました。フィンランドではCO2を出さない電力源として、5基目の原子力発電所の建設が決まりました。ヨーロッパはCO2排出量の少ないロシアからの天然ガス、フランスの原子力発電からの電力輸入、それと風力発電で乗り切ろうとしていましたが、CO2排出量が殆ど無い原子力にはかなわない。風力発電も無公害ではなく、供給力に限度があることが除々に認識され始めています。

 高速増殖炉を導入して核燃料サイクルを完成していこうと言う計画は日本だけではなく、アジアでは中国が具体的な計画を持っています。米国でもワンススルー路線を転換して再処理やTRU核種の消滅処理の研究を開始する意向。国際協力も盛んで、アメリカ、日本、フランス他7カ国で第4世代原子力開発研究(GIF)を1昨年に発足させました。現在6種類の革新炉を検討することになっていますが、その内の4つが日本のもんじゅ型を含む高速増殖炉あるいは高速増殖炉への可能性を持ったものです。その他、IAEAでも共同開発計画を持っています。

 以上世界各国でも高速増殖炉に対する期待は大きい。理由としては、ワンススルーでは使用済み燃料の量が膨大になること、高速炉はウラン資源の有効利用が100倍近くになることが挙げられます。

現在60億人といわれている地球人口は今世紀中ごろには90億人から100億人になるものと推定されており、地球温暖化防止と化石燃料に替るエネルギー源としては高速増殖炉を使用したプルトニウムリサイクルしかないとの認識が、世界に広まり出してきました。

 

2.   日本の立場

 日本は極東の島国で、世界第2の経済大国ですがエネルギー源の90%以上を輸入していること、大陸から切り離されているので電力の輸入ができないといった、エネルギー安全保障上、他国に比べて極めて脆弱な立場にあります。そのことに早くから気づき、準国産エネルギーとして使えるプルトニウムを増殖する高速炉−核燃料サイクル路線をとり、研究開発を進めてきたのは、現状では正しい選択かと思います。また日本は世界で原子力の平和利用に徹することを表明している唯一の国です。

 高速炉−核燃料サイクル路線しか今後世界がとり得る道がないと気づき始めた現在、これらの事柄は日本が世界のリーダーになれることを示唆しているものと思います。

 高速増殖炉の開発スケジュールは日本国内では確かに当初の予定より大幅に遅れてはいますが、世界の大勢から見たらまだまだトップを走っています。

 プルサーマルから再処理に繋ぎ、MOX製造技術を磨きつつ高速炉開発、実用化を商業規模で実現していくのは日本の繁栄のみならず、世界へ貢献できる大きな道筋かと思います。

 

3.   原子力施設立地都道府県および市町村および電力会社の立場

 以上述べてきたことは私の考えですが、現実に原子力施設を県内,および地元に有する地方自治体および立地している電力会社の場合には、原子力安全問題、放射性廃棄物問題、高経年化問題、廃炉問題や電力自由化問題等あらゆることに頭を巡らせなければならず、本当に大変なことだと思います。しかしながら、問題はある時点の切り口で見たものであり、その事象は時間の経過とともに変わるものです。ウラン価格は今は安いかもしれないが、何10年後はわかりません。為替レートも今後どのように変わっていくのかわかりません。それらの変化を念頭において、多くの人々が制度設計・改革により回答を出すべく日々努力しており、また技術開発・技術改善による安全性の向上やコストダウンを目指しているわけです。一度に総てのことを解決するのは難しいでしょうが、今まで日本が蓄積してきた技術、知識に加えて全世界からの知恵を借りれば解決できるものと考えます。そしてまた、それらの結果を世界にフィードバックできるわけです。

 地方自治体としては、これからますます深刻さを増すであろう地球温暖化問題とエネルギー問題を同時に解決しうる原子力産業が自県、地元市町村にあるということを誇りとし、共存共栄を図っていくというのは間違った道には見えません。電力自由化とは電気事業者が電力以外の他の事業を自由に実施できるということでもあります。知恵と資本を出してもらい、地元の繁栄のために起業してもらうことも可能でしょう。

また、立地している電力会社してもそのようなことを積極的に展開することにより、失われた地元への信頼の早期回復が図られるものと確信します。

 

                                      以上