平成16年8月17日

経済産業省 大臣    中川昭一 殿

原子力委員会 委員長    近藤駿介 殿

原子力安全委員会 委員長    松浦祥次郎 殿

経済産業省 原子力安全・保安院 院長    松永和夫 殿

福井県知事    西川一誠 殿

 

 

エネルギー問題に発言する会  有志

 

建議    美浜3号原子力発電所の事故に関してお願いしたいこと

 

以下申し上げることにつきましては、国、自治体の主要なポジションにおられる皆様にとっては、十分ご理解いただいていることと存じます。ただ今回の問題がもたらすインパクトは、決して小さいものではありませんので、敢えて下記建議を提出いたします。適切な対応を切に願うものであります。

 

建議

 

8月9日の美浜3号原子力発電所の事故は、まことに厳しいものと思われます。詳細なことがわからないので、断定的なことは言えませんが、管理の面に重大な盲点があったようで、4人の死者を出し、7人の重軽傷者を出した被害があった事には、なんとも暗然とさせられるものであります。

 

こういった事故が、特に原子力発電所で発生した場合の世論はきわめて厳しいものであります。既に原子力発電所に反対するグループはこの時とばかり、攻勢を強めて来ています。こういった事態に際してお願いしたいことは、規制する立場の方々の毅然とした態度であります。今回の事故は死亡を含めた人身災害という重大なものでありますが、本質的に原子力発電が不安全なものであるとか、役に立たないものであることを示したものでは全くありません。その役割や必要性には変わりはないということを揺るがすような対応は、絶対にしてはならないことであります。

 

経済産業省の大臣はもちろんのこと、原子力委員会委員長、原子力安全委員会委員長、保安院院長、また関係自治体の長などの要路の方々の対応は、その後の原子力発電の役割に非常に大きな影響を与えるものでありますから、この事故を起こしたことに対する責任と、原子力発電そのものの持つ必要性とを厳密に区別して対応していただきたい。またこの事故があったから言うべきことが言えないということは、敢えて耐えていただかなければならないことであると考えます。

 

今回の事故も明らかに人間の失敗によるものであります。こういった業務に携わった一員としてはなんとも口惜しく、慙愧の気持ちを分け持ちたい思いを強くいたすものであります。しかし事故が発生すると必ず出てくるのは、「安全を軽視した結果発生した事故で、原子力に対する国民の信頼を根底から覆した」という非難の言葉であります。さらにその後に、そういう状態では原子力で懸案になっている事項、核燃サイクルやプルサーマル等は当分保留する必要があるという話が続きます。事故を起こしたことに対する当事者の責任は重大でありますが、これらはそのこととは、まったく別個の問題であります。これをはっきり認識し、的確に対応されるか否かが、その衝に当たる方々の識見を示すものであると思います。

 

またいろいろな努力にもかかわらず、残念ながら人間のすることから、この失敗を完全になくすることは不可能であります。この人類の持つ特性を十分理解し、重大な事故に繋がらないようにするために、最近特に失敗に学ぶ必要性がかなり論じられて来ました。このことはエネルギー問題に発言する会のホームページでも何回か提示していますが、いかに上手に失敗に学ぶかを、真剣に論議していただきたい。失敗に学んだ後の原子力発電所の信頼性は、大幅に向上するものであります。事故を経験し、その内容を徹底的に分析し、対応をとることで、信頼性が飛躍的に改善されることは、米国のスリーマイル発電所の例でも明らかであります。このことに関しても十分な説得を行っていただきたいものであります。

 

今回の事故では、人身事故であるため、刑事的な追及は避けられないかも知れませんが、重要なことは真実を知ることであります。この事故はきわめて痛ましいものでありますが、悪意で起こしたものではありません。人を処罰することよりも、真実を明らかにして、設備の安全性を高めることがより重要であることの認識が、広く理解されるようご指導いただきたいと願うものです。

 

またこういった事故が発生すると、すぐに監督機関の検査を厳しくする必要があるという言葉が出てきます。この点に対しても今回の事故の本当の原因を十分に検討され、検査のあり方の修正で行くのか、品質保証体制の充実で行くのか、その真の原因が排除できる対策をおとりいただきたい。こういった場合、往々にして過剰な検査や管理の強化がなされがちでありますが、このことは返って健全な原子力発電所の運営に障害となります。このような事故を起こした時、もっとも被害を受けるのは、その企業自身であります。事故予防はまさに人のためのものではなく、自分自身のためだという認識の徹底が鍵であります。

前にも述べましたが、人類から過ちは避けられません。しかし人類はその失敗によって進歩して来たものであることは、十分学んできたことであります。その過ちをした時その当事者は勿論でありますが、規制する組織、関連する部門が、それにどう対応したかが、後世に問われるところであります。今回の失敗に対する対応をそれこそ誤って、悔いを永く残さないよう、是非お願いいたすものであります。

                                      以上

 

エネルギー問題に発言する会  有志

 

天野牧男、池亀亮、石川迪夫、石井享、石井正則、岩井正三、小笠原英雄、小川博巳、斉藤修、柴山哲男、鈴木誠之、太組健児、竹内哲夫、土井彰、林勉、益田恭尚、松永一郎、武藤正 

 

 

付記

 

エネルギ問題に発言する会について、

 

この会は日本のエネルギー問題にとって、原子力発電は必要欠くべからざるものであるとの認識を共有する者たちの集まりです。原子力発電、広くはエネルギー全般、環境問題等についても正しい理解を社会全般に広めるための活動を行っています。活動の詳細は当会のホームページ(http://www.engy-sqr.com)をご覧いただけたら幸いです。会員はメーカー、電力会社、官庁、研究機関、原子力関係業界、メデイア等のリタイアーした人達を主体とする団体です。完全にボランテイア活動でどこからも金銭的支援を受けていません。組織に縛られない自由な立場からの発言を行っています。

 

連絡先         「エネルギー問題に発言する会」、幹事       林       勉

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