座談会記録「チェルノブイリとTMI事故は日本で起こるか」を読んで
平成15年1月16日
森島茂樹
「チェルノブイリとTMIは日本で起こるか」の座談会記録などを読みましたので私の意見を述べてみます。
ただ、チェルノブイリ事故などは、現在、原発反対派の方々の(マスコミを含む)発言のべースに成っていますので、それらに対抗するための反対派に対する反論として、私なりの考えを纏めてみました。原子力には素人の私ですので、次の資料を参考としました。
・ 原子力の暴走 石川迪夫先生著
・ 衰退するアメリカ 原子力のジレンマに直面して
Alan E.、Waltar著 高木直之先生訳
・ 原発のどこが危険か 桜井淳先生著
・ 完全シュミレーション原発事故の恐怖
瀬尾健(故人)著 共同企画 日本消費者連盟
・ Webサイト 原子力図書館(原子力百科事典、ATOMICA)
しかし、年寄りのにわか勉強なので、十分理解出来ない所もあり、間違った所も有ると思いますのでご指摘下さい。
1.最初に上記の図書などを見て驚いたのは、原子力エネルーの強大さです。
・ TMI事故では、原子炉異常による「緊急自動停止(スクラム)」後の崩壊熱(核分裂後の原子の出す熱)だけで燃料棒等炉心の殆どが溶融損壊したことです。
・ チェルノブイリ事故では、この原子炉の最低負荷でテストをしている時に、この型式の原子炉特有の正の反応度効果(炉内の温度が上がれば出力も上がり暴走に繋がる効果)が起こり僅か数秒間で原子炉出力が定格の100倍を越し、原子炉破壊に至ったことです。何れも、原発で特別な事故が発生すれば膨大なエネルギーにより取り返しが付かない事になると思いました。
2.TMI事故の概要
・ 1979年3月28日タービン関連設備のトラブルによりタービンが切り離され、原子炉の圧力が上がったので、「逃がし弁(安全弁の様な物)」が開き、原子炉も「スクラム」した。
これで圧力は下がったが自動的に閉まるべき「逃がし弁」は故障により閉まらなかった。(逃がし弁開閉の直接的表示が制御パネルに無かったので、操作員は気がつかなかった。)それで炉内水の流出が続き、圧力も下がり2分後に「非常用炉心冷却装置(ECCS)」が動作し炉内に冷却水を注入するようになった。
・ 原子炉内の水位は、直接確認する表示が無く、原子炉の上にある加圧器の水面計で確認していた。この時、炉内の水位は各種操作で沸騰、冷却が繰り返されて見掛け上の水面計表示が高くなり、操作員は、炉内水量は十分と誤判断した。
・ その為、「逃がし弁」は開いたままとは知らず、操作員は、ECCSの注水を絞り削減した。
・ その為、炉内水量が減少し、燃料棒が水面上に出て、燃料棒の温度が崩壊熱で上昇して、炉心が溶融損壊した。
*このTMIでは、1977年3月試運転開始より事故まで約2年間にECCSの動作が5回有った。日本では1970年軽水型原発運転開始以来今までECCS動作は全部で5回有り、実際に冷却水が漏出したのは1991年2月美浜原発2号機の伝熱管破断1回のみであり、これも周辺環境への影響は特に大きくは無かった。この時でもマスコミ等の報道は大騒ぎであり、今でも時々話題になる。アメリカと日本では、設備の扱い方などに可成り差が有るように見える。日本は原発の取り扱いには、より慎重だと思う。
3.チェルノブイリ事故の概要
・ 1986年4月26日発電所では、原子炉から切り離されたタービンの、慣性エネルギーを活用する試験の準備をしていた。
・ この為、原子炉の出力を下げ安定な運転となるよう操作したが、原子炉の其れまでの運転状況により、炉内が安定せず制御棒(入れると原子炉の出力は下がる)を規定値以上に引き抜いた。
・ また、この試験操作以外での原子炉停止を嫌い、原子炉緊急停止信号、ECCS動作回路を不動作にした。
・ この原子炉は、日本の軽水炉とは違い、特に低負荷域では「正の反応度効果」を持っていたので、微妙な操作の変化で炉内の状況が動揺し試験開始でタービン切り離しとほぼ同時にこの効果が発生して、短時間での原子炉破壊に至った。
・ さらに、この炉は日本の軽水炉とは違い、中性子減速材として黒鉛を大量に用いていたこと、格納容器の構造なども日本より随分脆弱であった。それで、黒鉛の火災が数日続き、建屋も大きく破壊されたので、大量の放射性物質が長期且つ広範囲に拡散した。
4;これらの事故が日本で起きるか。
・ それぞれの事故で被害を受けられた方、特にチェルノブイリ事故で亡くなられた方々には、心よりお悔やみを申すしかない。
・ しかし、これらの事故から25年、16年経っている。これらの事故を教訓として、安全対策は、大きく進んだ。基本的には、操作員の事故への認識が格段に進んだことであり、それぞれの事故への要因となった間違い操作は、正しく是正されている。
・ 設備面でも、TMI事故の要因になった「逃がし弁」の機構が良くなり閉じ損ないもなくなり、開閉表示も正しく見られることになっている。
・ 原子炉内水位も制御室で確認でき、勘違いはなくなっている。
・ この為、現在の日本の軽水炉では、TMI相当の事故は、起こらないと言える。
・ チェルノブイリ事故については、元々原子炉構造が違うので同じ事故は起こらないと言えるが、事故の教訓も有り、安全意識が向上し無理な制御(制御棒の引き抜き過ぎ、保安回路、設備の勝手な切り離し)等も抑制しているので、日本でこれ相当の事故は起こらないと言える。
5.その他の事項
a)・纏めの前書きで、「東電事件」でマスコミと安全・保安院の見解が真っ向から対立していると有りますが、小生は、そうではなく、マスコミの報道が、公平さに欠けて居るだけだと思います。安全・保安院は、事故隠しを報告した日に同時にシュラウドクラック等の原子炉への安全性を其れなりに評価して、直ちに原子炉の安全性には問題無いと報告しています。
・マスコミ報道ではこれを無視して、一般社会の安心を脅かす報道しかしていません。マスコミは内部告発とかトラブル隠しとか世間を騒がすことだけを報道するのがご自分の仕事とお考えのようです。
b)完全シュミレーション原発事故の恐怖(瀬尾健先生著、小出裕章先生補足)には下記のように書かれています。
1)日本全国の原発での炉心溶融・格納容器破壊時の被災者を算出している。
一例として福島第1の6号機では、急性障害の死者は5万8千人、晩発性障害(ガン)の死者は東京の人も含め344万人としている。
2)チェルノブイリは正の反応度では余り暴走しなくて、日本の原発の安定範囲を越える擾乱での暴走スピードがチェルノブイリを凌ぐのではないか。チェルノブイリの事故は、制御棒の先端にあった黒鉛棒による。この程度の間違いはどこでも起こるので、日本の原発でも大事故は避けられない。
3)日本の原子力技術は優秀なので大事故は起こらないと言ってきたが、最近でも「もんじゅ」でのナトリウム漏れ、東海再処理工場での爆発、敦賀2号の一次冷却水漏れ、JCOの臨界事故が起こっており、日本だけは大丈夫とはとても言えない。特にJCOの事故では、1mgの核分裂で大事故を起こしたが、100万kwの原発では、この10億倍もの影響が出る。
1)については、大きく書かれているが広島・長崎の原爆、チェルノブイリの事故実績等から、話10倍と見ても大変なことなので、炉心溶融・格納容器破壊は日本では起こらない様にしなければ駄目だ。
2)については、瀬尾先生の書き過ぎと思う。
3)については、これらの事故が、瀬尾先生の言われる炉心溶融・格納容器破壊等の重大事故に直接繋がる物ではない。又、JCOの事故については、犠牲者には気の毒ではあったが、この様な事故は原発の設備では起こり得ない。これで原発や原子力産業全般の安全性を問題とするのは間違いと思う。
上記のように、私の偏見もあるとは思いますが、
・マスコミは公平性の欠けた報道で、世論(これが現代の最大の権力者)を間違った方向に導いていると思う。
・反対派の方々もご自身の技術力をベースにトラブル等を誇大に評価し、反対運動に油を注いでいると思う。
・東電の内部告発された方もシュラウドクラックは安全上それほど緊急の問題ではないが、隠すことを責める為にされたのか?
伊方原発のタービン架台のクラックを告発された原子力資料室の方は、安全上緊急性は無いが、原子力反対運動を力づける為にされたのか?
・東電の現地の方々もシュラウド等が本当に危険で有れば、すぐ報告されたと思う。国や事業者の権力者?が、自己の権力を守るためだけに、隠したり、報告を遅らせたのではない。
・我々は、日本の原発の安全性を早く正しく評価して、マスコミや、反対派の方々とも正しい評価が出来るよう頑張るべきだと思います。
以上