電力の輸入について

織田 滿之

 

原子力発電を巡る情勢に関連して、過剰ともいえる現状の原子力規制について諸外国並みの合理的な規制にするべきだとの主張がなされている。

仮に電力の輸入ということを考えてみることで、わが国のエネルギー確保と特異な規制や国民性などのいろいろな問題点を浮かび上がらせてみるのもひとつの手法として必要ではないだろうかというのが趣旨である。

 

火力発電による電力生産の大半を頼っている燃料の天然ガス、石炭、石油はそのほとんどを輸入に頼っているのが現実で、化石燃料は熱源や輸送用として用いられる1次エネルギー源でもあり、日本の経済産業活動、国民生活の根幹をなしている。

化石燃料の安定確保は国益の最重要課題であるが、ガスはともかく石油はその85%以上を中近東地域に依存している現状である。この地域の政情不安はイスラエルとパレスチナの関係、アフガニスタン、イラン、イラクの問題、さらにはサウジアラビアの今後の政情など宗教的な背景も踏まえて見たとき、いつ何が起こっても不思議がない地域である。また、マラッカ海峡周辺、中国大陸と台湾間の海峡を通って膨大な量がタンカーによって運ばれている現状のなかで、シーレーンの防衛問題も重要な課題である。

一応数ヶ月間の需要をまかなうだけの石油備蓄はあるものの、自前の地下資源を殆んど持たないわが国の国土を考えるとき、1億3千万人国民を継続的に養っていくためのエネルギーセキュリティ上、燃料の安定した確保は常に日本の政治の基本事項であることを忘れてはならない。

 

原子力発電は燃料備蓄が容易、一回の燃料装荷で長期間稼動が可能という固有の特徴のほかプルサーマルや高速増殖炉の実用化による燃料リサイクルでこのメリットは倍化する。

 

前述の通り化石燃料の大半が輸入であるが、原子力を含めて島国の日本においては電力生産、つまり発電自体はこの列島のなかで行うものだとの前提が常識化されていて電力の輸入はあまり話題にのぼったことは聞かない。

しかし技術面でいえば、直流送電、超高圧送電などの送電技術は日進月歩である。電力の輸入は不可能なことではない。現に、紀淡海峡(約50km)では3000MW(中型原子力発電約3基分相当)の海底直流送電が敷設され運用されている。

ここで例としてあげるなら、韓国釜山とわが国対馬北端までは約50km、対馬南端と壱岐までがやはり約50km、さらに壱岐から九州佐賀県の唐津までは約30kmということであるから紀淡海峡の技術で可能ということである。韓国での発電単価はわが国の半分程度であると聞いている。一般に長距離送電では電力のロスが距離に応じて大きくなるが、海底送電線建設費用も含めコスト評価をしてみる価値がある。

同様に、樺太やシベリアに発電所を建設し、電力を輸入することも検討に値すると考えられる。

 

わが国の原子力発電のコストは米国などに比べても数倍以上と格段に高コスト構造である。このコスト構造は、完璧性を求める国民性からくる工業製品の高価格や高人件費もあるが、過剰なまでの規制やマスメディアが主導する国民の受容性後退による影響も大きい。さらには、一部地元自治体などの寄付金の要請などの見返り要求や、何かにつけて利益誘導による発電所建設期間の異常なまでのリードタイムもコストを上げる大きな要因である。

仮に原子力発電所を新規に立地する場合、計画の遅延がなく、リスクベネフィットをベースにした科学的に合理的な諸外国並みの規制のもとで安全対策を講じてOKということなら発電単価を半減させることはあながち不可能な話ではないと考えられる。

 

海外立地と電力輸入の比較検討・評価は関係機関からの反論もあろうが、一方で日本国内の非合理的な過剰規制や地元要求を見直す機会につながることも期待される研究、議論の材料でもある。

 

電力は基本的に貯蔵ができない商品である。電力輸入の場合には政治情勢によって送電の制約を受けるという事態も考えに入れておく必要があるから、当然のことながら政治情勢の側面も考えに入れる必要があることは承知している。しかし、欧州各国間をはじめ米国とカナダのような電力の輸出入を現実に行っている例もあるのだから、一定の条件が満たされれば、国内原子力発電にこれだけ難問を抱える以上、いつまでも電力は輸入できないものとして検討対象にしないとはいかないと考える。

 

電力の輸入の場合でも、それを化石燃料でというのは地球環境保全の面では問題であるから、立地国において原子力を活用することが必須であろう。

この考えの出発点には、日本国内であれば前にあげたように種々の制約条件があって高価につくものが、合理的な取扱いができる外国ではリーズナブルな低価格で電力生産ができ、送電コストなどを含めても価格競争力をもち得るのではないかと思えるからである。

この延長形として将来のエネルギーである水素を原子力で現地生産してガスとして輸入するなども考え得る。

 

以上