映画「東京原発」にみられる間違い
エネルギー問題に発言する会
小笠原英雄
最近封切りされた娯楽映画「東京原発」を見て、如何に娯楽映画とは言え、科学技術的に誤った情報や数値をベースに語られているくだりについては放置できないと思った。一般の視聴者に原子力に対する荒唐無稽な恐怖感を、意識的に与えるようになっているからである。問題の部分について正誤表形式に説明を試みた。
No. | 間違った表現 | 説明 正確な内容 |
1 | 浜岡原発の設計地震加速度600ガルを関東大震災の900ガル、兵庫県南部沖地震の820ガルと同列に論じている | 関東大震災の900ガル等は地表で観測された地震の加速度である。一方日本の原発は地面を硬い「岩(がん)」まで掘り下げた解放基盤に設置することになっており、浜岡原発の設計地震加速度600ガルというのは、そこで想定したもので地表での加速度とは異なる。この時浜岡地区の地表の加速度は1300ガルとなる。 浜岡原発をはじめとして、全ての原発はこの想定された加速度に基づいて、厳密に設計され安全性が確認されている。 |
2 | 原発は出力を変えると非常に危険性が高いので低出力運転を余儀なくされているとの表現 | 原発の出力変動は容易に可能であり、原発でも負荷に応じて出力を変えることができる。海外にはそのように運用されている発電所がたくさんある。日本では輸入した貴重な重油を節約することと、環境対策から原子力をベースとした運用をしているだけである。 |
3 | 世界中の増殖炉計画も危険すぎて廃止されているとの表現 | 日本だけでなく露、仏、中、韓、インドで開発計画が進められている。増殖炉の歴史は軽水炉より古く、安全性で軽水炉に著しく劣る訳ではない。 |
4 | 昭和29年の国会における初めての原子力予算審議が何の議論も批判もなく抜き打ち的に行われたとの表現 | 反対派も存在したが、共産、社会党も賛成し珍しく全員一致で通った国会史上稀な例であった。戦後日本で禁じられていた原子力研究が許可されることで国を上げて歓迎した。 |
5 | わずか1gのプルトニウムが、一般人の年間被曝許容量の18億人分にあたるという表現 | 計算の根拠が不明。核分裂物質の量と被曝線量との関係は直接には対応しない。 |
6 | プルトニウムを現在稼働中の軽水炉で利用することは、ウラン発電に比べて危険性が非常に高いとの表現 | 現在運転中の原発の中では、ウランからプルトニウムが出来、そのプルトニウムのかなりの部分が核分裂している。発電量の約三分の一はこのプルトニウムの分裂による。 したがってウラン発電でも、運転開始後のごく初期以外はプルトニウム燃料を使っていることになる。仏、独では十年以上も前からプルトニウム燃料を使っており、危険というものではない。 |
.7 | 放射能は空気感染する恐ろしい病原菌みたいとの表現 | 放射能は放射線を出すが、空気感染はしないし、病原菌のように増えたりもしない |
8 | 放射能は見えないので、漏れたらかくしてとぼけたい連中には真に都合のいい代物との表現 | 放射能は放射線を出すので、検出器により何処に、どれだけ、また何があるかを知ることができる。隠し通せるものではない。 |
9 | JCO事故でのウランの核分裂量が1mgであり、その放射能は一億倍位に増大するとの表現 | 計算の根拠不明。単位時間あたりの核分裂量が判れば放射線源の強さは計算出来るがこのような表現にはならない。 |
10 | 六ヶ所再処理施設の年間処理能力800トンが死の灰発生量の1000トンに追いつかないとの表現 | 年発生量1000トンは死の灰ではなく使用済み燃料の量である。高レベル廃棄物が死の灰と呼ばれるものであるが、その量は使用済み燃料の約3%に過ぎない。 |
11 | 最終処分に関して、一万年経っても消えない強烈な放射能物質を埋めて影響がないわけがないとの表現 | 核廃棄物の量は人間の他の営みの結果生じる一般ゴミや炭酸ガスなどの廃棄物に比べて量的に少ない。放射線を出すので管理しやすい特徴があり、人間の生活圏に影響がないように隔離、貯蔵し、長年にわたって管理できるように技術開発に努めている。 |
12 | チェルノブイリ事故の際、事故処理にあたった作業員86万のうち、5万5千人以上がこれまで死亡し、残る生存者も87%が発病との表現 | 2000年の調査結果の数字と思う、ロシアの一般平均と変わらないようである(死亡原因も)。87%が病気は本当とは思えない、半数くらいの人が放射能恐怖が原因で高血圧等放射線障害とは関係のない病気に罹っていると言われている。 |
13 | チェルノブイリ事故で放射能汚染がキエフの北300kmまで及び、これと浜岡原発とを比べている | チェルノブイリ炉は炉心が黒鉛で構成されており、火災により練炭の火炎のように放射能を含んだ燃焼気体が上空2000m以上に達し、ジェット気流で遠方まで拡散した。軽水炉では構造がまったく違うので、比較にならない。 |
14 | 水素を用いた燃料電池が資源問題の全てを解決するような論調 | 水素は水その他の化合物として地球上にほぼ無尽蔵に存在するが、水素を分離するには他のエネルギーが必要。場合によっては原子炉を使うことも考えられている。また、取扱上の安全問題も半端な話ではないであろう。 |
15 | ハイジャッカーが燃料輸送容器を爆薬で破壊しようとするストーリー | かなりの程度まで衝撃、火災に対する耐力は実証されている |
16 | 燃料容器が川や海に落ちた場合の臨界事故が想定されている | 燃料輸送容器は水に浸かっても臨界にならないように設計されている |