10の提言」 への追加提案

東アジアのエネルギー安全保障の確立を急げ! 


         営利活動組織 エネルギーネット代表
         エネルギー問題に発言する会会員
         エネルギー・環境・Eメール(EEE)会議会員
        小 川  博 巳 

                                                                       

 

産業構造審議会と総合資源エネルギー調査会が、その枠組みを超えて合同会議を持たれた英断に、先ず敬意と賛意を表したい。 「我が国のエネルギー確保」に端を発した第二次世界大戦と、二度に亘る石油ショックの苦い経験を踏まえて、識者がやっと膝を交え「エネルギー環境政策」の議論を重ねる場が出来るまでに、思えば何と長い年月を費やして来たことか。

 

  原子力を国産と評価しても、我が国のエネルギー自給率はたった20%に過ぎず、先進諸国の自給率と比べても最低水準にとどまっている。 不安定な中東を取巻く世界情勢は、第二次世界大戦直前の状況に酷似しており、「エネルギー非常時」との危機感こそが、今やエネルギー問題に携わる者にとって、最も求められる現状認識ではなかろうか? 

 

最悪の事態を想定して、特定地域へのエネルギー依存度を15%以下に抑制することを国家戦略の一つに掲げ、あまつさえ膨大な軍事費ですら、「エネルギー安全保障の必要コスト」だとの公式見解を示す国すらある。 世界の各国では大統領など国の指導者が、国家戦略に基づいて、率先してエネルギー確保のための資源外交を展開しており、欧米や需要が急増する中国などとの「エネルギー争奪戦」は、今後益々熾烈を極めることは避け得まい。

 

イラク暫定政権への主権移譲は、前倒しで実施されたが、新生イラクが正常な国家機能を整えるまでには、なお幾多の紆余曲折があろう。 全会一致の国連決議を経てもなお、多くの人命を失い続ける中東に、我が国は石油需要の90%を依存し続けている。 このような無神経な実態は、国の命脈を他国に預けて、いわば爆弾を積んだテロ車両に身を委ねているに等しい。 我が国には、「エネルギー国家戦略」が殆ど無いに等しいことの、明白な証左と云えまいか。 

 

10の提言」の第一位に、「エネルギーの国家戦略」を取り上げられた合同会議の見識には、深甚な敬意を表したい。

 

願わくば、中間報告を引っ提げて、国民との対話の機会を是非とも持って頂きたい。 エネルギー行政に関して欠落している一つは、国民との対話であり、エネルギーと環境問題は国民自らが考えるべき問題だとの訴えが、理解を得る第一歩ではなかろうか。 中間報告(案)が経済産業省のホームページに提示されてはいるが、これに気が付く国民は0.01%にも満たないと思われる。

コメント公募締め切りまで時日が限られているので、組織的に検討と議論を重ねるいとまがないのは誠に残念であるが、国の命運を担う戦略的課題については、国民にも十分な検討の時間を与え、献策を吸い上げる行政度量を望みたい。 個人的な、視野の狭い意見ではあるが、一端でも汲んで頂ければと念じ、卑見をも省みず以下の提案をさせて頂く。

 

 

1. 「エネルギー国家戦略」の策定と「エネルギー省」新設

 

各種政策との連携をはかり整合性をとりつつ、省庁を超えた高度の判断が求められる「エネルギー環境政策・国家戦略」を、経済財政諮問会議などで審議することは、複視眼的な視点から国家戦略を練り上げる良策だと考えるが、継続的に国家戦略を遂行する行政機関が、一方では強く求められるのではなかろうか。 

 

省庁を束ね、国家政策の根幹に係わる各種政策との調整を遂行するには、強力な権限を付与した行政機関が必要で、このような機能を持つ「エネルギー省」の設置を提案したい。

 

  国家戦略の遂行に際しては、総理大臣及び関係大臣を補佐しつつ、国の指導者をエネルギー外交の最前線に立しめるための、政策検討の積み重ねと継続性が求められる。 エネルギー政策基本法と基本計画のみでよしとせず、時々刻々と変遷する世界の動向を常に見極め、我が国の国家戦略に何が不足し、何が必要かを一貫して考える戦略家の機能と、現実的な行政機能こそが、この新設「エネルギー省」の使命ではなかろうか。 

エネルギー国家戦略を現実的かつ効果的な政策に置き換えるには、卓越した専門家集団が必要となる。 特にエネルギー環境問題は、国際経済と国際政治力学に裏打ちされた、したたかな資源外交の力量が必要だが、エネルギー・人口・環境問題などのいわばトリレンマを解決するための、国際的なイニシャティブを発揮することも、「エネルギー省」に求められるのは言をまたない。

 

 

2. 一国主義を超え、東アジア地域のリーダーとしての視点

 

アジア全体を広く捉えることに異存を挟むつもりはないが、地政学的にもアジアを単一視するには余りにも無理が伴うのではなかろうか。 むしろ、ASEAN+日中韓三国と、必要に応じてロシア・北朝鮮を加えた東アジア地域に的を絞り込んで、我が国がリーダーシップを発揮することが現実的ではないかと考える。

先ず身近な「東アジア地域のエネルギー安全保障の確立」のために、我が国に何が出来るかを考え、貢献策を東アジア諸国に提案することこそ大切ではないか。

現下の国際政治・経済的環境から見れば、「我が国のエネルギー安全保障」を確立するためには、欧米ならびに中国はじめ域内諸国とのエネルギー争奪戦を勝ち抜かねばならないが、争奪戦の行き着く先は武力に頼り、覇権を求める世界、戦争をも辞さない嘗ての過ちが彼岸にある。

 

我が国は過去の苦い経験を糧とし、新たな発想が求められる所以であるが、一国主義を脱し、東アジア地域のリーダーとしての視点に立ち、「東アジア地域のエネルギー安全保障の確立」を訴えるべきではないかと考える。

 

 国際的枠組みの構築や、エネルギー環境問題の研究機構、あるいはフォーラムの結成などの提案に際しても、このようなスタンスに立っての提案でなければ、真の賛同は得られないのではあるまいか。 

日中両国は、ロシアからのパイプライン敷設の問題、海底ガス田と排他的経済水域設定の問題など、資源外交上の難問を抱えているが、一方では、南シナ海諸島に絡む中国・ベトナム・フィリピン・マレーシア・ブルネイ・台湾など、諸国間のエネルギー利権争い、領有権争いも深刻化している。 

エネルギー利権問題の解決にも、また、中東から同海域を経由するシーレーンの防衛問題などを関係諸国と協議するに際しても、我が国のエネルギー国家戦略の基本的スタンスを、「東アジア地域のエネルギー安全保障の確立」に置くべきではあるまいか。

 

 

3. 「東アジア地域のエネルギー安全保障の確立」の方策

 

一国だけのエネルギー安全保障の確立ですらままならないのが現実ではあるが、「東アジア地域のエネルギー安全保障の確立」に向けて、域内各国との協調の中にこそ、「我が国のエネルギー安全保障」を追求すべきではなかろうか。

このための具体策として、「提言2」以降の策には全面的に賛意を表するものであるが、併せて、次に掲げる「四つの構想」を提案したい。

 

 

3−1. 「東アジア地域に国際エネルギー市場を」

 

発展途上国の人口爆発と、エネルギー消費の増大は国際的な重大課題であるが、中でも、いまや中国は我が国を超えて、世界第二位のエネルギー消費国となり、更にその増大は国際エネルギー市場にとって、計り知れない潜在的な脅威となっている。 視点を変えれば、世界的なエネルギー需要・購買力は、欧米と東アジアに偏在していることを注目したい。

 

東アジアのエネルギー購買力を集約的・戦略的に活かして、「東アジア地域に国際エネルギー市場を構築する構想」を、「東アジア地域のエネルギー安全保障の確立」の具体策の一つとして提案したい。 

 

エネルギー争奪戦は原油価格の不安定要因を生み、既に高騰を招いているが、無策でこれを座視することは許されまい。 「東アジア地域に国際エネルギー市場を構築」することを起点とすれば、強力な購買力を武器として、生産国との強固な連携を図り、国際的に有利な価格政策を協議し、域内の調達融通性を拡大すると共に、エネルギー資源の共同開発など、地域で協調して為し得る現実的な政策を、効果的に創出し得ると期待する。

国際エネルギー市場は経済原則・市場の原理そのものの世界ではあるが、東アジアの増大し続けるエネルギー需要を国際的な市場イニシャティブに切り替え、地域の安全保障につなげる政策協議が強く求められる。

 

 

3−2. 「原子力プラント輸出」による「アジアの核拡散防止」

 

エネルギー需要が増大するアジアの各国では、原子力発電所の建設計画が急速にクローズアップされている。 既に欧米・ロシア・カナダなど原子力先進諸国は、原子力プラントの輸出に向けて企業ベースを超え、国を挙げて取り組んでいる。

「核兵器国」の仏・露・中国などから導入支援がなされゝば、核拡散防止に必ずしも十分な配慮が払われない可能性が懸念される。 イラン・イラク・パキスタン・北朝鮮等の例に見られるごとく、結果的に核拡散問題が重大な課題として残されることを危惧するものである。 

 

従来、我が国は原子力プラント輸出に不熱心であったが、東アジアの新たな原子力需要には、いまこそ我が国は「原子力プラント輸出」を目指して、国を挙げて取り組むべきである。  原子力発電の安全確保と核拡散防止に、世界で最もまじめに取り組んで来た我が国が、原子力プラントの導入支援をしてこそ、「アジアの核拡散防止」と「安全で平和な原子力」の確立に貢献できよう。

 

 

3−3. 「アジア原子力地域協力機構(ASIATOM)」の創設

 

  東アジア地域の日韓台など原子力先進国が、原子力発電を今後も継続的に推進することは、それによって節約した石油・石炭・天然ガスなどの化石エネルギーを、発展途上国に融通する効果を生み、地域のエネルギー需給を緩和する観点から、極めて効果的な施策であり、原子力先進国の国際的な責務であろう。

また、東アジア地域のエネルギー多様化を図るうえで、原子力オプションを持つか否かは、国際エネルギー市場における東アジア地域の、有力な切札となり得ることも再認識したい。 

我が国のエネルギー政策基本法では、原子力発電を基幹電源として位置づけ、今後も推進する基本方針を示しているが、このように東アジア地域の視点からも、原子力発電の推進が強く期待されている。

 

前項と併せてこのような視点のもとに、金子熊夫氏が長年提唱されておられる「アジア原子力地域協力機構(ASIATOM)の創設」に賛意を表し、「東アジア地域のエネルギー安全保障の確立」のための具体策の一つとして、改めてここに提案したい。

金子著「日本の核・アジアの核」(朝日新聞社)参照

 

 

3−4. 「東アジアのエネルギー協調」ロードマップを作れ

 

原子力は基幹エネルギーの提供のみならず、緊急時の備蓄効果と地球温暖化の観点からも、国際的にその評価が改められつつある。我が国の原子力先進技術と共に、石油備蓄技術・代替エネルギー技術(太陽光発電・水素エネルギー・燃料電池及びクリーンコール等の技術)並びに省エネ・省資源技術、或は、産業ポテンシャルは何れも国際的にトップレベルにある。 これらの国際協力は、部分的にAPECなどの枠組の中で試みられてはいるが、協調体制は必ずしも十分でない。 域内諸国は、エネルギーシステムの多様化と環境対策の観点から、これら技術の導入と対策促進を強く希求している。

 

総合的な「先進技術の国際協力システム」の構築と、現実的かつ友好的な国際貢献が急がれるところだ。

 

経済の急激な発展と人口爆発問題、エネルギーの逼迫、エネルギー多消費による環境問題など、所謂、トリレンマ問題については東アジアの視点から、総合的に対応策と政策協議を重ねることが重要であろう。 また、域内諸国には、先に指摘したエネルギー利権争い、領有権争いの火種が燻っているが、各国が一国主義の視点から「エネルギー安全保障」を追及する構図では、解を見出し難いのではなかろうか。

一国主義を脱し地域で連携し、「エネルギー安全保障」を相互に追及する理念が、国際紛争解決の早道ではなかろうか。 奇しくも、ASEAN+3の会議で「東アジア共同体構想」が現実味を帯びて来た今こそ、「東アジア地域に国際エネルギー市場を構築する構想」はじめ、「先進技術の国際協力システム」などの構想を盛込み、「東アジアのエネルギー協調」の総合的ロードマップを固め、「エネルギー環境閣僚会議」の主議題とすることを提案したい。

以  上

 

 

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