原子力二法人の統合(J−J統合)に関する報告書(案)への意見
平成15年9月26日
エネルギー問題に発言する会
大井 昇
要旨
長年、巨額な国費を注入した割りには、原子力二法人の過去の成果はお粗末と思います。まず実績の評価をしっかりやり、その反省に立って新法人の使命、運営を考えるべきでしょう。まずは新法人の成果目標を明示し、その目標を達成するための“民”との関連をはっきりすべきです。新法人のR&Dの成果が実用化されるべく、特にプロジェクト研究については、政府の金を、研究のニーズを持つ“民”から新法人に発注できる「改革的」な方式を生み出すことが必要です。さらに新法人のトップには、従来の常識、枠組みや発想に捕らわれない人を国際的に公募し、出来れば外国人を選ぶことが良いと考えます。
意見
原子力二法人の過去の実績の評価ですが、残念なことに期待外れでした。基礎研究でノーベル賞の話題に上ったものはありません。報告書にあるように、日本の先頭に立って多くの成果を上げてはいますが、皮肉な言い方をすれば、その多くが研究者にお金を付ければ出来る話です。再処理については、巨額の研究費を使って、原研の再処理特研から始まり、動燃/JNCの東海再処理工場で、ずいぶんと研鑽を重ねたのに、六ヶ所村の再処理工場は、基本的にはフランスの技術であること、プルトニウム燃料の開発を長年、動燃/JNCで実施したのですが、六ヶ所村に建設されるMOXプラントは事実上フランスの技術であること、さらに自力で進めているウラン濃縮の成果もURENCOと比較すると格段に劣るなど、残念な面が多いのです。「なんでもない」もんじゅの事故で高速炉の開発が頓挫したのもその大きな例です。
それにしても、この報告書(案)には“民”の字が見えませんね。新法人だけで「原子力システムの高度化を図ることにより、エネルギーの安定確保と地球環境問題の解決」を図ろうとされているのでしょうか?上記の「期待外れ」の事態になった大きな原因の一つは、原子力二法人と民間の事業者との連携が上手く行かなかったためと思います。役所の縄張り争いのせいとも言われてもいますが、もし研究費が事業者から出ていれば、すなわち国のお金であっても、何らかの方策を講じて、研究が事業者から発注されていれば、こんな残念なストーリーにならなかったでしょう。つまり、研究とその成果とが上手くフィードバックするサイクルが出来ていないのです。新法人では、今度こそR&Dサイクルが回るように考えるべきです。そうすれば研究者は活性化する筈ですし、手探りで研究をして、折角の成果が使われないという無駄も減るはずです。
現在の日本では、原子力二法人には、比較的潤沢なお金が毎年付いているようですが、他方新規開発のために、研究、設計、開発をする民間側はお金が無く、将来への開発意欲や希望を失ってきている状態です。幾らか偏見かもしれませんが、原研とJNCは御殿のような建物で、研究費用も潤沢に研究をしている。他方民間の研究者はプレハブの建屋に詰め込まれていると感じています。先般、大洗JNCで新しい建屋を拝見しての実感です。これでは原子力の将来はありません。お金の流れ、使い方や成果の評価など、もっと踏み込む必要があります。官が上、民間は下という意識では駄目ですね。
正直言って、民間の事業者は新法人にあまり期待していないのではと思います。あまり大きなお金を使わず研究をやって頂き、基礎研究、ノーベル賞を取れるような研究、人材の養成やインフラの整備などをやって頂ければ良い、などと考えているのではないでしょうか?安全規制のための研究も幾らかは必要でしょう。しかし実際に製品を作る民間の研究・開発より国の安全規制のための研究が先行するのも困ったものです。報告書(案)の新法人設立の意義に「この原子力二法人の統合は、わが国の原子力研究開発の再構築のため建設的かつ有意義なものでなければならない。今般の原子力二法人の統合が、このような改革をなしうる絶好の、そして最後の機会であるという不退転の決意」と熱い思いが書かれていますが、全くその通りと思います。ぜひ日本の原子力の将来のために、また納税者ががっかりしないように、熱い思いで「改革」をやって頂きたい。そのためにもキープレイヤーである新法人にはR&Dサイクルが回るような大胆な方策が必要です。また新法人のトップには、従来の枠組みや発想に捕らわれない人、「世界の非常識である日本の常識」に捕らわれない外国人を選ぶことが良いのではと考えます。世界的なCOEを目指すのでしょう。国際的に公募しては如何でしょう?