エネルギーの将来
−新しい原子力開発の重要性についてー
平成16年4月17日
エネルギー問題に発言する会
石井陽一郎
1. 石油価格は長期的には高まると予想される。ある時点から生産抑制が顕在化する可能性がある。そのときは予想とは別に、急速に(5年間に2割、3割といった高騰)主たるエネルギーになり得なくなる。73年より2/3に減ったりとはいえ、 わが国では現在一次エネルギーの52%をなお石油(ほぼ100%海外依存、参考*1)に依存している。
この点を黙過してはエネルギー戦略は立てられない。
2. 石炭は豊富、低廉だがSOx,NOx,さらに煤塵、酸性雨の抑制のため、将来はやたらに増やせない。しかし現状では必ずしもそうなっていない。*2
3. 天然ガス(LNG,NG)もさらに利用されていくが、石油生産がもし衰えれば、それを補う力は不十分であろう。*3
4. 太陽光、風力、バイオは若干増えていくが、特に発電の場合は、出力の不安定性、絶対量の少なさ*4、代替電力を含めコストは高く、限定的利用にとどまる。 燃料電池は石油の効率利用といった面で魅力はあるが、経済的かつ大規模化については目下不透明、だが開発されても化石燃料のマイナス面は残る。
5. 原子力はSOx、NOx、CO2,、潜在資源の有望さからみて、化石燃料に比べ決定的に優れている。日本では国産エネルギーなるセキュリテイ確保からも不可欠である。しかし現在 エネルギーシェアの面では世界的に必ずしも高く評価されていない。*5
6. 再処理、高レベル放射性廃棄物(HLW)処分は原子力の大きなネックだが、中間処分、直接処分など現有技術ではすでに射程内である。
7. 原子力に対する評価は心情的なのが多いばかりでなく、正当に評価されていない部分がある。5について全面的な評価をせず、廃棄物の量が産業廃棄物の10−5オーダー、酸素を消費しない、放射線や安全設計がハイグレードであるにもかかわらず評価されない。欧州でも10年以上前から検討されている、Extern的評価*6が日本では本格化していない。
リスクとレターンについてもそうである。原子力だけには部分あるいは総合結果の過程で、決定論的視点にたつ、いわゆる風・桶論をとる人がいる。さらに事象の起こる確率×事象の大きさ=リスクであることを踏まえないのは不可解としか思えない。*7
8. 新しい原子力の開発について
8.1 現状
・原子力は当分軽水炉が主流である。
・核燃料サイクルにしてもウランの現状と見通しにたって、100%に近い高速増殖炉路線には無理が多いーことはかなり認識されつつある。
・一方プルトニウムの平和的利用、処分は緊要なことであり豊田氏(元日本原燃社長)他が心配される、プルサーマルによる消費、使用済核燃料の発電所内貯蔵は焦眉の問題になりつつある。六ヶ所村の再処理施設稼動を目前に控え、当面これを活かしていくのが、現実的であろう。
8.2 将来の開発
・現在 原子力は安全性を根本に、経済性、運転保守性などの信頼性の規範の上に立って設計・製造、運転、保守されている。しかし15年〜20年といった近い将来は軽水炉更新が視野に入る。このままでよいのであろうか、端的にいえば、原子力は上記規範のさらなる向上に加えて以下 一段と飛躍が必要と考える。同時に世間、一般から見てもはるかに受け入れられやすくなるはずである。
イ)小集団によるリスクーテローへの耐力強化
ロ)核不拡散への耐力の飛躍的向上
ハ)再処理がない、もしくは容易であること
ニ)高レベル放射性廃棄物の処理・処分が容易になること(廃炉を含む)
・望ましいものとして
ホ)効率の向上(運転費と資本費の節減→経済性向上、環境に対する廃熱も減る)
ヘ)燃料を含め長寿命とし、定検間隔が長く、稼働率向上も期待できること
ト)簡素であること、冗長性は必要最小限を目指す*8
○核燃料のタイプ、サイクルまで含めたシステム、および異質原理の方式、新概念へ公正な評価と実現。
例)トリウム利用軽水炉、MSBRその他の方式の再検討。
8.3 開発の進め方 提言
・上記の検討、評価は一見かなり膨大で、手にあまると感じられるのではなかろうか、限られた人材と費用の中で、経営の足かせになるようなら新型炉もなにもない ということになる。現在の増殖炉路線はどうなるか という疑問も生まれる。
・しかしながら、すでにエネルギー(消費)大国になっている中国がこのまま石炭に依存しっぱなしとは考えにくい。*5むしろ中国の原発開発のアドバルーンは実現への意欲の顕れではなかろうか。韓国も原子力と石炭のシェアの多い国である。両国とも向上精神が旺盛であるから、いずれ自国または国際協力で新しい炉の開発を目指すと思われる。米国は新たな提案をしつつある。2020年頃は各種新型炉の生存競争の時代に入るのではなかろうか。
・国内は電力需要の伸び悩みがあるが、深夜電力の活用(後述)による需要増加もある、海外でも真に良いものは採用していくと見られる、製造大国である日本の活躍の場がここにある。
・われわれは、内外のトラブルなどの情報、もんじゅの二審、東電トラブルに端を発した福島県対応その他の情報を得ている。必ずしも技術情報ばかりではない。 過去ウン十年に亘る、オールジャパン的開発の経験もしている、外国の開発やエネルギーや原子力政策の情報もある。よって昔に比べ評価能力は格段に向上しているはずである。こういった点から参考までに以下提言したい。
○第一段階 原子炉やシステムの新概念、基本設計の評価を、現在の国やメーカー、電力体制の抜本変更なしに個別に実施、大切なことは利点をアッピール(いわなくても 「こんなに良いもんだ」という)して評価するというより致命的欠点をあばく、いわば模擬裁判を実施する感覚である、ダメなら再度改良型を提案、それでもダメなら、その方式はあきらめる。現行LMFBRも含まれる。2〜3年
○第二段階 以上の繰り返し、評価組織の考え方も同じ。2年
○第三段階 成立可能な2〜3案に絞り、基本設計を実施、メーカーを主体とした部分合同も考慮、基本設計→フィジビリテイスタデイ→高度な評価、2〜3年
・これまでのフィジビリテイスタデイと異なるのは、考えられる設計上落とし穴が第一、第二段階で一応クリアされていることである。
○第四段階 実現可能な案2つくらいに絞る、メーカー合同や具体的な国際協力も考慮する。基本→詳細設計へ。2〜3年
○第五段階 新型炉1号機建設(更新を含む) 2020年頃。*9
9. 原子力を増やした場合、稼働率が下がって大きな柱である原子力の経済性が損なわれるのではないか、その心配は無用である。深夜電力として安価な電気料金での水素生産、造水、農業電化、二次電池開発とあいまって電気料金の低減、さらに付言すれば、リサイクルによる資源生産の道が格段に開ける。
・深夜電力のさらなる活用は以上に関係した新たな産業の興隆をうながし、資源の節減、廃棄物の減少、環境改善につながると考えられる。 こんご積極的に研究するテーマと思う。
○経済の拡大、環境とのバランスがこれからは、ますます大切である。かりにエネルギーが豊富だとしても省エネ、省資源は継続されなくてはならない。
以上
*1 2000年度総合エネルギー統計。電力量では石油による発電は12%、 原子力は29.8%−IEA
Energy Balances of OECD Countries、なお主要国の輸入エネルギーはわが国は、伊についで多く80%。
*2電力量だけでいえば、2000年度で1位―米4.0兆Kwh,2位―中国1.35億、3位―日本1.08億、4位―ロシア0.87億Kwhである。石炭による発電量では、中国―78.3%、2位―インド77.4%(総Kwhでは0.54兆KWhで8位)、3,位―米、独52.7%、5位―韓国43.2%、ロシアの石炭による発電量は20%で日本の23.5%(世界7位)の次。 −出典同上
*3日本エネルギー経済研究所が、本年3月研究会で特別報告を行った(原産新聞16,4,1)。それによれば世界の一次エネルギー消費は全体で2000年90.6億トン(石油換算、内アジア24,2億トン)、2020年で136億トン(アジア47億トン)、この間の伸び率は2.1%(アジア3.2%)以下同。 シェアについては、石炭の世界(アジア)消費は2000年対2020年で26%(43%→40%)。石油:39%→37% (39%→38%)。天然ガス:23%→26%(9.8%→13%)。
*4 同上報告では、石炭、石油、天然ガス、原子力のほか、水力、地熱を除くいわゆる新エネルギー等は2000年対2020年で世界(アジア)で2.1%(0.6%)→2.2%(1.1%)とわずかな評価にとどまる。
・宇宙発電が論議されないのは不思議ではある。
*5
同上により原子力の2000年対2020年シェアは次のように報告されている。
世界(内アジア)7.5%(5.4%)→5.7%(5.4%)。欧米での新規着工がほとんどなく、老朽設備も廃止される方向 という現在での観測によるものと見られる。
*6 Extern的評価とは、たとえば 動植物に与える影響について、化石燃料の燃焼、廃棄と原発のそれとの比較、人の健康への影響、社会環境(用地、廃棄物の量など)といった類の、外部経済的なものを指す。
*7 たとえばこのような例が挙げられる。4基のエンジンを持ったジェット機のエンジンが飛行中3基止まった→墜落→大惨事、とは人は容易に認めまい。なぜならそこへ至る過程で、前駆症状や人的、物的に対策されるので突然はありえない、結果(リスク)としてせいぜい飛行機1基の修理が必要なだけ との信頼感があるためと思われる。
もう一つ大隕石落下→人災事故、直撃されたらまさにそのとうり、だが、大隕石落下は極めて稀、あっても大気圏であらまし破壊される、しかも直撃の例はあまり聞いていない。原子力においては安全と安心の乖離が強いということだろうか。
*8 たとえば安全設計において、あるシステムのトラブルが無視できない重要な結果を招くおそれがあるとする。故障確率80%の機器を一つでなく2つ設ければ 20%の事故率が4%に減る、結果の重要性は1/5となる。しかし正作動率も80%から64%に減ずる。このための安全性を含めたシステムの信頼性はどうなるであろうか。80%の機器はそのままにして別のガードを装備する考え方と比較されなくてはならない、機器の故障率を少なくも96%以上にすることも含めてであるが。 つまりシステムを複雑にしたからといって、安全性を含めた信頼性が高まるとはいえない。 逆説的にいえば技術的には面白さは減るかもしれない。技術者の恣意性は抑えられることになる。 TMI事故とチェルノヴイル事故における格納容器の差が どれだけ大きな結果の差となって顕われたであろうか。
*9 評価段階はいわば体制をほとんど変えないミニグループ検討である。それぞれが被告であり、原告であるといえる。手をあげたミニグループには当然ながら最大限の情報が与えられ、評価する権限と責任を持つ。
・中小型炉も視野に含める
・第三段階でもオールジャパン的発想はとらない。メーカー主体のものである。
・部分的な研究開発は必要かもしれない。国や電力はそのため有利な資金援助をすることも望まれる。しかし大きなモックアップやシステムのミニモデル研究は実証性確認に手間取る。その必要性や程度は第一や第二段階で評価すべきである。
・実験炉、原型炉の発想も止める
・第五段階 電力が主事業者、建設、運転に入ってもトラブルは考えられる。しかしそれは第一〜第三段階で模擬裁判的に評価、シュミレートされているから、大きな問題にはならないはずである。2号機以降のマイナーチェンジで対応可能である。
・逆にいえば第一〜第三段階の評価はこういった、起こりうるトラブルや事故の確認作業ということもできる。