最近の原発立地県の原子力対応に思う

平成14年12月7日  

                          石井陽一郎

 

東電問題発生以降の原発立地県における最近の原子力対応について私の考えるところを述べてみたい。

1.安全について

1) 基本的には、現代文明社会はリスクとベネフィットの上に成り立っていることは論をまたないと考えられます。電車、車、航空機、一般工場、発電所、鉱山等すべてに故障や事故がありながらも受け入れられていることがそれです。

とりわけ原発においては、考えられる事象、過去の事故やトラブルを考慮して、リスク対策、安全性の確保を最優先としており、今後も変わりはないと確信します。

2)原子力の場合も上記の範疇に入っているわけですが、特にわが国では、1945年の悲劇的な原爆の体験、他の産業にない放射線に対する脅威から、いわゆるアレルギーが強くなったと思われます。

3)    わが国では、報道された限りでは原発での被曝などによる死亡事故や障害は発生しておりません。原発以外では不幸にして近年JCOの臨界事故がありましたが、       原発従事者の被曝は防護基準をかなり下回り、ここ数年は1人あたり1ミリシ−ベルト(80年代の1/3,5年間法定ベースの1/20)と低位に推移しています。

4)    国際原子力評価尺度(INES)はいわば地震における「震度」のようなものですが、深層防護の劣化(多重防護が損なわれること)や、放射線漏洩による長期的な影響も考慮されている点が異なります。わが国では91年に起きた美浜2号機の伝熱管損傷が原発としては最大で2と評価されました。(原発ではないがJCOでは4、高速増殖炉「もんじゅ」の二次系ナトリウム漏洩が1、79年米国のTMIが5、86年旧ソ連のチェルノヴイルで7‥‥過去最高、と評価されている)

  今回東電問題を発端とした一連のトラブルは条件に当たらないので当然低い値と認定されると見ています。

5)    現在、国会で審議される運転時の「維持基準」の導入に疑問を投げる方もいます。曰く、「製造時と同じ基準では厳しすぎるから「維持基準」を導入して現実的なものに変えるのではないか」と。

しかし、真に大切なのは、形式的に「厳しい」からよい、ではなく本質的な安全が維持され、どう担保されるかということだと考えます。森羅万象、形式的に長時間「変わりない」といったものがあるのでしょうか。安全性が当初設計レベルと比べ、その裕度内に維持されるなら何ら問題はないと考えられます。わが国の機械学会で維持基準のルールがあると聞いていますが、欧米ではとうに実用化されている科学的、合理的な考え方であります。

朝日新聞の11月28日付け社説では「『傷は隠すものでなく、安全性を確保するための糧』の意識をしっかり持つべし」と書かれています。その通りと思います。                    

   規制側も事業者側もその意味では、対応が遅かったと思います。維持基準の考え方、事前、事後の自主点検などはは今後も発展されるべきものと考えます。

 

2.原子力の信頼性―安全と広報

1)基本的に、前述したように、車、航空機、また医者にかかること、金融や取引一般、この世の信頼性とは相手をどう理解するか、信用するか、安全の本質にどうかかわっていたか、現場などの当事者をどう見るかということでしょう。その高い、低いで信頼性のレベルが決まっています。

原子力ではこの点がしっかりしていなければ成り立たないのはもちろんです。当然、本当に今回トラブルは問題なかったのか。残念ながら公開、透明性に問題があったことは、指摘されている通り反省すべき点です。

2)今回のトラブルでは、報ぜられるように原発当事者は「原発を止めれば1日1億円とか」、「稼働率を上げろ」、「とにかく定検期間を縮めたい」といった現場へのプレッシャーはなかったとはいえないでしょう。    

       しかし、これが大きなトラブルや事故につながらないといった判断は第一に現場をはじめ当事者の頭にあったと、だからいわゆる穏便にすましたい、これは関係官庁までも含まれる部分があります。でなければ身を呈してでも補修作業を行ったに違いありません。

       俗にいう「様子を見る」ということですが、実はこの「大きな事故的なものにならない」といった判断が極めて大切なものだ、と声を大にして言いたいのです。

結局は1)に述べたように現場や当事者マターだというのが多くの識者の考えではないでしょうか。

立地自治体としてそんなことが信頼できるかと言われるなら、それは仕方のない話ですが、ではこれまでのサイトでの連絡の過程から(聞いてない話は別として)問題点を前向きな形で暴いてきたといったことが−やや下品な言い方ですが−胸をはって言えるのでしょうか。信頼感は互いに全くなかったのでしょうか。

3)原発の情報の連絡については、重要な問題を含んでいながら隠し立てや改ざんといったことはあってはならない。特に原発の性格上大切なことであります。

よって、こういったことは電力側からは、公開し、質疑にはすべてきめ細かく対応すべきであると思います。

4)原発の信頼性について、職場の現場、立地住民、の関係はあらまし上述の通りです。事業者や国の判断も関係します。

さらに安全確保が一層合理化される「維持基準」が施行されることにより信頼性の一要素である透明性、公開の点でも大いに改善されることになると期待しています。 

      先にも触れた 国際原子力評価尺度(INES)は原子力でトラブルなど生じた場合その程度を、分りやすく数値化して発表されるものです。深層防護も考慮されています。正確を期すため必ずしも速報されるわけではないのですが、一般にもっと考慮を払った方がよいのではないでしょうか。原発のように技術的にも広くまた高度化されているシステムにおいてはなおさらです。 

これらを踏まえて当事者間で対応すれば、信頼性はいっそう高まるのではないでしょうか

3.エネルギー政策

1)エネルギーセキュリテイ:エネルギーの輸入依存度は97年ベースで、主要国では1位日本79.2%、2位ドイツ59.8%、‥‥米22%、英マイナス18%(OECD96-97)、70年代90%を超えていたことから見れば飛躍したといえます。
また、日本は石油輸入だけでいえば70年代はじめにはわが国は70%を超えていたのが、現在は50%前半に減っております。省エネ、電力機器効率向上も大きいのですが、発電量でいえば、70年にはわずか1%の原子力が現在は13%に達しているのがなんといっても大きい。国をあげてのセキュリテイ対策の結果ともいえます。

火力発電の無公害対策、その効率向上、原子力稼動が寄与してSOx,NOxの原単位も当然主要国中最も低いのです。ちなみにCO2は原子力や水力の比率の高いフランス、カナダについで日本は第三位のKWhあたり0.37Kgとなっています。

しかしながらわが国は欧米先進国と比べると、エネルギーセキュリテイの面ではまだ大いに見劣りがします。

2)電力需要の今後と発電設備:01年エネ調報告では2010年まで年間0.44%の伸びとされています。将来 水素エネルギーの高度利用、農業のさらなる高度化、水不足への対応が必要となれば電気エネルギーは計画以上に必要となります。

いわゆる新エネルギーである、風力、太陽光は人にやさしく魅力的ですが、原発や火力など汽力による発電に比し、コスト高且つ不安定で、わが国での伸びは風力で2010年で国の目標は300万キロワット、せいぜい全発電設備の数%程度です。私個人としてはもっと増えてもよいと思いますが、エネルギーコスト高や、極端な省エネ政策を容認するのでない限り過大な期待は無理でしょう。

火力発電の効率は、複合火力で50%台の効率のプラントが実用化されているように、わが国は世界トップクラスに達し改善の余地は少なくなり、今後、国際公約である炭酸ガス抑制への効果は火力に頼るだけでは無理でしょう。産業や民生電気機器の効率も頭打ちに近い今、セキュリテイを含めると原子力に期待するより他に手は無いと言えます。

3)廃棄物問題:立地県で心配されている原子力の高レベル廃棄物は、現在技術的な見通しは立っていますがサイトなどは未解決でありますが、次の点を指摘しておきたいと思います。

いわゆる産業廃棄物は年4億トン(11年度)、現在はリサイクルやリユースが進んでいるとはいえなお4億トン程度発生しています。これには煙突から出る気体廃棄物(炭酸ガスと水がほとんど)は含まれません。一方原子力は、高レベル廃棄物を日本全部合計しても年に1,500トン、付属物をふくめても1万トン未満でしょう。

要するに高レベル廃棄物は産廃だけとくらべても量的には数万分の一のオーダーです。たいへんなことは確かですが、本質的に解決出来ない話ではないと思います。

4.今後のエネルギー政策と原発立地県に望むこと

    わが国は資源小国、特に化石エネルギーはほぼ100%輸入です。コストもからみ水力、太陽、風力などの新エネルギーも少なく、欧州のような電力連携もできない、エネルギーセキュリテイに問題があります。炭酸ガス抑制対策など環境面も含めてベースになる大電力をまかなうのは原子力発電以外には考えられません。

    元より、原発の大前提は、安全であります。今さらラスムッセン報告ではないが、他のいかなる産業以上に重視されて来たし、今後も同じであります。

 原発の稼動率低下や、建設が全く滞ることになれば我国の産業、民生に与える影響は計り知れないと憂慮するものです。

以上