「気候の暴走」地球温暖化が招く過酷な未来
横山 裕道著:花伝社
元毎日新聞科学環境部長兼論説委員が著者のこの本では、①このまま温暖化が進むとどんな未来になるのか、②過去には地球上でどんな気候変動があったのか、③現在、我々がどんな状況に置かれ、どうしたら危機を脱却できるのか、の三点をできるだけ分かりやすく具体的に書こうと心掛け、幅広い観点から地球温暖化問題に迫っている。
我が国で地球温暖化対策が政策目標となったのは、一九九七年の京都会議以降で、以来、温室効果ガス削減は国際的に喫緊の課題とされてきた。現実にも、この二十年間で地球温暖化に起因するとされる気象災害の死者は六十万人、被災者は四十億人に達している。温暖化が進むと、水・食糧不足が決定的になり、海面の上昇が進み、気候難民が数億人発生するなど、世界が極度に不安定化する予測を本書では国連や世界銀行の報告書をもとに描いている。
この本で面白かったのは、これらの予測とは離れた部分。過去地球では気候変動が度々あり、二十億年も昔には地球全体が厚い氷に覆われて雪玉化した時代があったとする説など、何しろ昔のことだからはっきりしないことも多いがとの断りはあるが、過去の地球環境に関する珍しい学説も多々紹介されている。いろいろな学説があることから、地球温暖化説は信用できないという人も出てくるのだろう。パリ協定からの離脱をチラつかせるトランプ大統領もその一人かもしれない。
京都議定書に替わるものとして新たな目標を定めたパリ協定が二〇一五年一二月に採択された。日本も新たな適応策を定め、様々な目標を立てているが、これらを実現するには温暖化に関する教育、研究の質を高めることが重要と著者は指摘する。そのうえで、原子力に替わるものとして、再生可能エネルギーの利用を唱えるが、本当に原子力に替わることが再生可能エネルギーで出来るのだろうか。地球環境を守るためにはどうすればよいか、この部分を補足するような著書を著者には期待したい。(二十一世紀エネルギー問題研究会 齋藤 隆)
[月刊エネルギーレビュー2017年3月号]