「福島第二原発の奇跡」震災の危機を乗り越えた者たち
高嶋 哲夫著:PHP研究所
残念なことに福島原発事故の印象が強いため、他の原発も同じように大きな地震がくると危ないと思われているようで、熊本の地震の時には一部の議員やマスコミは九州の原発の停止を訴えた。原発も建設された時期や、炉型の違いなどで安全性は異なっており、後から建設されたものほど安全性は高くなっていることなど、立地地域にいる人には常識でもマスコミでは殆ど取り上げることはない。実際、太平洋岸にある東通、女川、福島第一、福島第二、東海第二の五つの原発は同時に地震にあい、津波に襲われたにもかかわらず福島第一を除く他の原発は無事に停止している。
本書は、福島第一原発からわずか十二キロしか離れていない福島第二原発の物語。同発電所は福島第一原発とほぼ同様の地震にあい、停止することはできたが想定外の大津波に襲われた。この結果、外部電源、予備電源が大きなダメージを受けて冷却機能を失い、原子炉が停止した後も発生し続けている核燃料の崩壊熱を除去することが出来なくなってしまった。福島第一はこの結果、燃料棒が溶け、建屋内に発生した水素が爆発して建物が破壊される事故となったが、福島第二は危機的状況を乗り切った。
福島第二と第一の違いは、わずかに外部電源が一回線生きており発電所全体が完全な停電にはならなかったことが大きいそうだが、福島第二を第一原発と同じような事故にしないため、必死の作業をした方たちの努力が描かれている。
著者は原研に勤務していた経験もあり、原発の事情にも詳しい。福島第二の内部で最悪の事態を防ぐために頑張った人たち、また福島第二を取り巻く人たちに丁寧に取材を行い、多くの方々の思いを本書にまとめている。
東電および関係者の方たちの声はこれまで殆ど取り上げられてこなかった。その中には未曽有の原子力事故をギリギリのところで救った人たちがいたことを多くの人に知ってもらいたかったという著者の声が聞こえてくるような作品である。被災体験を風化させないためにも一読をお勧めする。(二十一世紀エネルギー問題研究会 齋藤 隆)
[月刊エネルギーレビュー2016年7月号]