BWRのシュラウド

OBの技術屋の立場から、現在話題になっているBWRのシュラウドについての技術的な解説をします。


1)構造の概要
 沸騰水型原子力発電所(BWR)の原子炉の圧力容器の中にあって、炉心を囲む構造物をシュラウド(Shroud:覆う物の意)と呼んでいます。シュラウドの中には、燃料集合体の下端部の近くに炉心支持板が、燃料の上部に相当する所に上部格子板がボルトで固定されています。シュラウド、炉心支持板、上部格子板と、シュラウドの蓋であるシュラウド・ヘッド、制御棒の動作の案内をすると共に燃料の重量を支持する制御棒案内管、シュラウド・ヘッドの上に独立に設置される蒸気乾燥器を総称して炉内構造物と呼んでいます。

2)シュラウドの機能
 シュラウドの大きな役割りは、炉心の燃料集合体を支える傘立のような働きです。燃料集合体の重量は制御棒案内管を介して、原子炉圧力容器の底部で支持されています。燃料集合体の横ぶれは、炉心支持板で制御棒案内管の上部を支え(その意味では炉心支持板という訳語は正しく機能を説明していない)、燃料の上部を、ちょうど障子の桟の形をしている、上部格子板という構造物で支えています。このように、シュラウドは燃料集合体を正しい位置に保持するという重要な役目を持っています。
通常運転中のシュラウドの補助的役割は原子炉冷却水の通路を形成するという役割です。原子炉冷却水は原子炉圧力容器とシュラウドの間から原子炉圧力容器の底の方に流れ込み、炉心支持板の下にある、制御棒案内管に設けられた穴を通り、燃料集合体に供給されます。この冷却水は燃料集合体を取り囲んだ燃料チャンネルの中を流れ、燃料チャンネル内で途中一部沸騰しながら、シュラウドヘッドの下部空間に流れ込みます。この冷却水はシュラウドヘッドの上部に設置された、気水分離器で蒸気が冷却水から分離されます。分離された蒸気はシュラウドヘッドの上に設置された蒸気乾燥器で、さらに水分が除去されタービンへと送り込まれます。
シュラウドのもう一つの大切な役割は、原子炉圧力容器につながる大口径の配管が破断という大事故(勿論、世界中でも実際に起ったようなことはありませんが)を想定した場合、燃料を冷却するため、非常用炉心冷却系でシュラウド内に冷却水を注入します。この時、原子炉圧力容器につながる配管の一部に穴が開いていると想定したのですから、冷却水は外部に逃げてしまいます。シュラウドはこの時、内釜として冷却水を貯めておくという役目を持っています。
シュラウドはこのように燃料の横ぶれを支えるという働きと、冷却水の通路の形成を助ける働きと、非常時水を貯めるという機能を持っているのです。

3)シュラウドの構造・材料

 110万kw級の原子炉の場合、シュラウドは中央部で直径約5m、高さ7m弱、肉厚50mmの胴部と、中間に炉心支持板、上部格子板を固定するための肉厚100mmと60mmの円形リングを持った、オーステナイトステンレス鋼の円筒型の溶接構造物です。燃料の位置を正しい位置に支持するという点から、シュラウドは剛性を必要とし、フランジ部分は正確に機械加工をして仕上げます。
オーステナイトステンレス鋼は鉄に約18%のクロムと約8%のニッケルを混ぜた合金で、腐食しにくいという優れた性質を持っているため、原子炉の配管や構造物にはよく使われています。オーステナイトステンレス鋼は表面が薄い酸化皮膜で覆われていて、この皮膜が保護しているため腐食が進行しないのです。しかし、特殊な環境の下では、引っ張り応力が加わった状態で、局部的にこの皮膜が破れ、材料が溶接など熱影響を受けていると、その部分が集中的に腐食され、応力腐食割れ(SCC)を起こす可能性があるという厄介な性質を持っています。材料と応力という条件があると、高温の原子炉冷却水環境は、その中に発生期の酸素が溶けていて、これが応力腐食割れの原因になることが分ってきました。応力腐食割れについては別項の解説を参照してください。

4)シュラウドの製造

 シュラウドは大型精密構造物です。製作には機械加工、溶接、機械加工とステップを踏んで厳密な品質保証計画に基づいて、細心の注意を払って製作します。材料は特別注文で日本でも1、2の有名鉄鋼メーカーでないと供給できません。納期も普通10ヶ月は掛かります。工場での製造は材料入手後、1年近い納期が掛かります。製造した後、原子炉圧力容器の中に組み込みます。原子炉圧力容器には溶接構造のシュラウドサポートレグが精度良く取り付けられており、その上に、制御棒の貫通孔との位置合せに細心の注意を払いながら、工場又は現地で溶接組み立てします。

5)シュラウドの強度
 シュラウドは原子炉圧力容器の中の構造物です。原子炉の運転中、シュラウドの内外の圧力差は少ないため殆ど応力はかかっていません。地震時にシュラウドに要求される強度は、シュラウド自身と燃料集合体の横揺れを防ぐことです。応力腐食割れ程度の割れがあっても剛性は低くならないので心配はいりません。剛性というのは、お茶筒を思い出していただければ分るように、直径が大きなものは曲げようと思っても曲がりません。これは極薄くても剛性が高いためです。上下2箇所に分厚いフランジ部は、剛性を一層高めています。
今までの知見から割れの成長を想定した上で、強度評価を実施し、全く問題はないとの結果が得られているとのことです。

6)応力腐食割れによる漏洩について

 オーステナイトステンレス鋼は応力腐食割れを起こし易い性質を持っていることは前に述べました。この結果、一部で割れが貫通してしまったような場合、冷却水の漏洩について考慮しておかなければなりません。しかし、通常運転中、原子炉圧力容器が内圧を保持しており、原子炉冷却水を外部に漏らす心配はありません。シュラウドを通しての漏洩は内外の圧力差は僅かな上、燃料チャンネルの外側にはバイパス流を流しているくらいですから全く問題はありません。
非常用炉心冷却系の作動時について考えてみますと、この場合も水を貯めるだけですから、内外差圧は殆ど無く、漏洩したとしても、漏洩量は非常用炉心冷却系からの供給量に比べ極僅かで全く問題はないのです。

7)応力割れ対応

 米国を始め諸外国のBWRの原子炉圧力容器シュラウドにもこの厄介な応力腐食割れが発生しています。しかし、そのままの状態、または補強を施して、割れを監視しながら運転を続けていますが、長期間の使用によってもなんら問題は発生していません。
わが国では、既に6プラントでシュラウド交換が実施されました。応力腐食割れに強いオーステナイトステンレス鋼が開発され、加工上の注意点も明確になってきましたので、応力腐食割れの再発は防げると考えています。運転プラントのシュラウド交換は被ばく下での作業になりますので、十分な遮蔽下での作業と、遠隔作業によらなければならないという大工事となります。世界中で交換した実績はわが国以外ではスエーデンでボルト締結のものが1例あるだけです。(益田恭尚)