「皆で見直そうこれからのエネルギー」

―エネルギー安全保障のための合意形成―

(エネルギー問題に発言する会、座談会)

 

平成15年1月20日

1. まえがき

 「中東問題」が現在の国際情勢の焦点となっているが、この問題には石油・ガスを中心としたエネルギー問題が深く関わっている。30年前の石油危機は東アジアでは主に日本一国の問題であった。しかし、中国の石油輸入の急増などにより、今や東アジア全体の問題として考えておく必要がある。中東や北朝鮮問題など激動する世界の中で、日本のエネルギー安全保障は市場経済論が強く、その背景にある国家戦略として重要な安全保障意識が薄いとの指摘が先回の「みんなで選ぼうエネルギー」の座談会でなされた。今回は日本の「エネルギー安全保障意識」の現状や課題に焦点をあて、新しい視点に立っての原子力の役割や「エネルギー問題に発言する会」で果たせる役割についての意見交換を行った。

別添資料「エネルギー安全保障のための合意形成」による問題提起のあと討議に入った。

 

. 国民の安全保障意識と原子力の役割

国としての安全保障

○ 日本には国家戦略としてセキュリテイ意識がない。この問題には大きなバックグランドがあって、アメリカの傘の下に安住している二流国家になってしまっている。
セキュリテイ問題を外交だけに担保し続けるわけにはいかない。
国家としての安全保障を考える場所がどうしてもいる。それを作ろうということになれば、「日本の安全保障をどうするか」という議論になり、「エネルギーをどうするか」という事にもつながっていくと思う。私は国としてセキュリテイを考えるところがどうしてもいると思う。
それから、エネルギー危機が来れば、最初に起きることはエネルギー価格の高騰である。そうなれば、原子力は割安のエネルギーになり、経済原則で原子力は回帰する。あまりバタバタしなくても今の状態でほって置いても良いのではないかという意見がある。原子力をサポートする人たちは、いま(原子力を積極推進)しておかねばならないと言う。

 

原子力技術の維持向上

○ 前から心配しているのは「技術の維持」が大変であるという事である。原子力発電所の建設がなくなれば関係者も減少する。昔は原子力をこれから始めようというコンセンサスの上に立って、優秀な人が周知を集め、国民の協力もあった。今はドキュメントが整備されているが、いくら人を集めてもドキュメントを読んだだけでは新しいものは作れない。これは日本だけの問題でなく世界でもそうだ。新しい建設がないと、「技術の継承」が問題になる。

    新しいものを造り続けなくとも良いのかも知れぬ。今のままの状態で必要な時まで待っていれば良いのではないかという考え方もある。

     今のままの技術でも10年ぐらい作らないと設計技術、製造技術もなくなってしまう。

     日本だけ考えるとそうかも知れぬが、世界中を見渡せば対応出来るのではないか?

     「技術継承の問題」は経済原則により「ジワリジワリ」と石油の値段があがれば原子力をそれからやれば良いという事があろうが、急激な変化が起こった時、急に原子力を立ち上げようとしても難しく、エネルギー不足で日本の産業に大きな影響が出ると心配される。世界で起ころうとしているのは急激な変化である。

     「黙っていても原子力は帰ってくる」。それでも良いのか?という考えに対しもう少し意見を・・・・。

     いや、「どうせそうなってくるよ。あんまりバタバタするな。それで良いのだ」という意見に対してどの様に考えるかという問いかけである。

     アメリカ、フランス、イギリスは原子力潜水艦の建造がある。発電所つくりに比べれば小規模だが作り続けているし、共通する基礎技術の人とかその他も残っているので立ち上げる技術のスピードは速い。ドキュメントはしっかり持っている。日本の場合、5年ぐらいならまだ良いがそれ以上だとこれらの国に負けるのではないか。

     2〜3年くらい前にヨーロッパでの学会で、アメリカ政府(DOE)の人がアメリカはいずれ原子力をやらねばならないが、日本に頼ることになろうと発言していた。

     「原子力自然回帰論」はユーザーとメーカーの感覚の違いと思う。ハードは維持できるかもしれないが「開発技術の維持」が大切である。ハード面なら日本は何とかするだろうが、基本的な開発技術についてはアメリカの力に及ばない。ハードを作るためのソフトが重要である。    

     「技術の継承」というが、日本では今後原子力発電所をどの位建設するのか。電力会社の計画によるとほとんどゼロである。

     取替需要が必要となる。建設基数は右肩上がりにならないだろうが・・・。輸出のためにしっかりした「技術」を持つことが重要、エネルギー分野での日本の貢献は「知識を売る」という事で、石油、石炭、ガスを輸入するためのバーターとしても必要不可欠であろう。

     プラント輸出は日本の価格が高すぎてだめなのではないか、ロシアは日本の三分の一で出来るという。

     技術のノウハウを売るということはプラントの重要部分を作ることと共に日本として重要な事である。

     コストの問題よりも国がどこまで原子力をサポートするかが重要でこの一語に尽きる。原子力が成功している国はトップがリーダーシップを持って進めている。日本は国内ですら腰が引けている。技術力維持にはメーカーは物を作るという対象物がなくては維持できない。維持の中でも開発が重要な位置をしめるという指摘もその通りと思う。ソフトのキャッチアップは国民性ではないか。先方はシステマチックに考えている。日本は昔からキャッチアップで、これありきから始まった。チェックベースで、それをソフトの世界で確証した。我々がやった時代はキャッチアップで「この数字は何故か」というリクアイアーメント・ベースでは弱かった。 ソフトはキャッチアップの世界だった。

 

エネルギー安全保障について

     安全保障は議論に値する問題で無くなっているのかもしれぬ。関係している人はその重要性を理解しているが、一般国民はそれほど感じていない。石油がなくなった時、原子力が割安になり回復してくるという話の様に一般国民は気楽に考えているという事ではないか。

     そこが平和ボケとなっている証拠である。エネルギーだけでなく全て安全は守ってもらって当たり前と考えている。しかし、事態はのんびりしていると大変な状況になる。

     アメリカ経済界の有識者の持つ現在の最大のテーマの一つがエネルギーセキュリテイとの事だ。イラク攻撃とその後の経済コストから始まってエネルギー供給構造の安定性の維持が真剣に議論されるという。日本では経済界の有識者でこの問題を真剣に議論されているだろうか? アメリカの場合、最大輸入国でもその依存度が15%を超えないようにするために、エネルギー協力の面でのロシア、アフリカの位置づけや、アラブ地域の長期的な対米意識の変化を回復するための援助協力のあり方などが真剣に討議されているという。日米の国民レベルや経済人レベルの安全保障意識の違いを認識すべき。

     アメリカの政策は完全に変わった。以前はアメリカのニーズと日本のニーズは合っていた。冷戦時代はアメリカも中東で紛争が起こると大変だと思っていた。最近のアメリカは自国の国益のみを考えている。アメリカの石油を確保するために、ロシア、アフリカに手を伸ばし、石油を大体確保できるようになって、中東の影響を少なくした。日本はこの様にアメリカの状況が変わったことを真に理解してない。昔はアメリカの傘の下で良かったが、日本の安全保障をこの時点でどうするかを見直さねばならない重要な時期に来ている。

アフガン戦争以前と以後とで日本の安全保障の重要度が違うという認識を持つことが大切である。

     石油火力は10%シェアーで2010年には4%と低い計画となっており、石油の影響は少ないのではないか。

     10%だから価格が上がらぬではなく、先物買いで急速に上がる。そこで混乱が起こる。

     国民の安全保障意識の低いのが最大のポイントで国民よりも指導者の問題であり、原子力の安全は票にならない。われわれが出来る事は、指導者が分かっている事を前提としてこの人たちをどうやってサポートするかを具体的に考えていく事が重要である。

     エネルギー安全保障はマーケット、国際政治、資源、環境など複雑な要素が絡み合っており、その国の置かれた立場により何が優先度かの判断をする事が重要である。

 

エネルギー安全保障のための合意形成

     「安全保障意識」をどう国民が自分のものにしていくかが一番のポイント。教育や大衆をリードするマスコミ、テレビ、など優先順位をどこにおくかが重要。教育に20年、

マスコミを通じての理解には5年はかかる。

     黒海油田であれだけ潤っていたイギリスでさえ石油がなくなった時を考えてブレア首相が次のアクションを起こそうとしている。日本国民は日本に資源がないことは判っているが、ひねると電気やガスが出てきて、欠乏したらどうなるかを知らせてないので「実感がない」。欠乏したらどうなるかという事実を知らせるべきだがメデアも興味がない。そこで、学校教育が大切である。昔の国民学校の教科書に無資源国と書いてあった。もっと痛切に訴えねばならぬ。その問題を突き詰めると「縦割り行政」の弊害が出ているのではないかと言える。文部科学省と経済産業省が一緒になってやることを望むが、まず、「エネルギー基本法」に関連させてどう訴えていくか政治家に働きかけるのが良いと考える。

     それは多少動きが出てきたと思う。文部科学省と経済産業省が一体になることはまだ期待できないが、エネルギー問題についての教育をどうするかは多少動き出していると思う。これをインカレジするようにすれば良いのではないか。

○  「エネルギー基本法」のフォローでは、総合部会が出来てそこで検討が進む様だがわれわれの会としても何か貢献できるのではないか。

     中国の石油輸入の伸びで中東依存が激化する。中東での石油の争奪戦がどうなるかのシュミレーションでもしないと「原子力自然回帰論」が出てくる・・・・。

     ほって置けば原子力が回帰するという話は真理である。ただし時間の問題が重要、1ゼネレーション7年といわれるが、そこがターニングポイント。

     日本の平和ボケはエネルギーだけでない。あらゆるセキュリテイ意識が極めて希薄である。食料自給率も4割、国家としてどうするか全然出てない。世界の人口が増える、日本はセキュリテイを忘れて、その時々の経済的に都合の良いものを享受している。それがたまたま当たったので今日の日本がある。

     過去の日本はものを作る能力が高く、輸出で儲けて石油が高くても買えた。石油が高くなったら買えなくなる。

     株価でもあっという間に半分になった。セキュリテイというのはそういうものだ。

     過去は鉄鉱石など原材料が安かった。加工賃は高いと言われた。ものが不足すると原材料が高くなり日本の競争力は更に落ちる。

     セキュリテイ意識を回復するにはどうしたらよいか

     それは国民性だから難しい。

     NHKで世論調査した結果原子力は不安だが必要だという意識が高まっているという。一般の人は現状でも原子力が必要だと60%の人が意識している。その開きをどう考えるべきか?

     それは分析を丁寧にしないとだめだ、年長者の理解度は高いだろうが、若い人の理解度は多くないのではないか。

     ドイツが原子力を止めると決める直前に、電力会社の社長グループが来日して、当時の日本はうまく原子力をやっているが何故かという事を調べに来た。まとめた感想は、
「日本人は誰と話しても冒頭にセキュリテイ論が出るが、ドイツではそんなことはない」と。
エネルギーについては、老いも若きも「資源がない」というところから出発するが、誰が考えても日本に資源のない事は大前提だ。セキュリテイ論は本来もっとあるべきなのに出てこない。このギャップは何故か? 大きな問題である。アメリカの状況はフセインを潰した後の展望がない。アメリカは日本が石油の中東依存度が高く大変だという次元と全然違っており、日本としては、これから具体的な問題として考えねばならない。それから、日本は中東からの資源輸送をシーレーンを延々と通ってくるが、これを誰が守ってくれるか。日本と関係のない国が守ってくれる事は考えられぬ。この点をマスコミも取り上げない。

     エネルギー問題について一般国民もそうだが有識者も発言してない。この会でも強調して有識者やリーダーにチャレンジすべきである。

     食料について、遺伝子組み換えがかなりの割合で人類を救う大きな道であるが、反対が多い。食料における遺伝子組み換えとエネルギーの原子力の問題は国全体がこれをたたいて、自分たちを救ってくれる筈のものをだめにしてしまう恐れがある。人類を救える技術をつぶしてしまう。

     今こそ、そういう議論を学校の先生が時代に沿った表現でいま起こっている事実を噛み砕いて子供たちに話してやるべきである。

     最近中学・高校で話をする機会があった。この席で「これから人類が生き延びていくためには、(知恵ある行動と技術)しかない。技術の中に遺伝子組み換え、太陽のエネルギーを植物が利用できるのは最大3%ぐらい、これが10%ぐらいに利用できればかなり解決できる。もう一つはエネルギーの分野での課題解決は原子力だ」と話した。そしたらそんな話は聞いた事はないという。終わってから先生と話したら「そうなんですか」と先生も知らない。まず、先生に教えないとだめ。こういう活動はわれわれの世代でもっともっと出来る。真剣にアクションプランを考えるべきだ。

     エネルギー安全保障における原子力の役割は時代に即した表現で発信すべき、石油代替だけではない。将来の不確実性に対する抵抗力が高いとか・・・・。

     原子力は神が与えた天の恩寵だ。遺伝子組み換えとともに。

     食料と水とエネルギーは不可欠である。

     水はエネルギーがあれば何とかなる

     私も小学校、中学で話す機会が多いが、国というものの概念を捨て去ってしまってないか心配である。国が独立していることは立派な軍隊を持つことではない。
エネルギー、食料、情報、教育などその国の人がちゃんとコントロールできなければ本当の独立国ではない。そこが欠けている。イラクや北朝鮮などの話題の出る今こそ事実の理解を深めさせるチャンスである。

     われわれがセキュリテイの問題を切迫感を持って言えるのは、われわれの世代がこれらを経験しているからである。若い人は石油の値段が上がる、食料が配給される、
停電がある等エネルギー不足に対する切迫感がないのは、観念的には理解するが実際に経験してないからである。観念的に教育しても理解は難しい。もっと責任ある人が声を出さないとだめ。教育だけでレベルを上げることに無理がある。その意味で「値段が上がれば原子力回帰」という発言に共鳴がある。昔の日本が持っていたようなトップレベルの「決断と迫力」がない。

     自然にだめになり致命傷に陥ってしまったら、日本はえらいことになる。許容範囲なら「原子力自然回帰論」もあるかも知れぬが、あるレベルを越えたら金と時間をかけてもだめ。致命傷を負わないようにすべき。

     若い人はものが足りない経験が全くない。 「食べ物がなくなったらどうする」と聞けば、「スーパーに買いに行く」という答えが返ってくる。(笑)

     イギリスの復権はどんどん市民派が強くなり崩れていった。その時、サッチャーという強いリーダーが出てきて立て直した。一般市民が状況をわかって盛り上がったというボトムアップの結果ではない。

     サッチャーは教育に力を入れた。イギリス病になったのは教育がだめになったためだと主張した。強力なリーダーシップの下にこれからどうするかということを教育した。

 

3.「エネルギー問題に発言する会」で果たせる役割

エネルギー安全保障の合意形成について自由に議論した。これは一朝一夕には出来ないが具体的にこの会でどんなことが出来るかについて皆さんの意見を!

     この会はタレントがそろっている。一般国民に対する働きかけよりも有識者やキーマンに対してエネルギー問題が大事な局面に来ていることを発言し、具体策を提言していくべき。最近いろいろなところで、いろいろな人が発言しだしている。これをサポートするのも大きな役割と思う。中東問題に対応したアメリカ、ヨーロッパのエネルギー戦略の動きなどを見ても、日本はボヤボヤしておられないという事に対して発言すべき。

     最近日経に中国の石油輸入についての記事、インドネシアの利権の確保のところに日本のセキュリテイの重要性を書いた記事が出ていた。これは良い記事と感じた。

プラスの意見をタイムリーにサポートすることも大切。

     それに近いのがG研のホームページ「意義あり」と「これが良い記事」の両方が出ている。この種の方式も一案である。良い記事をサポートする事も効果がある。

     影響力のあるところにこのホームページを見てもらうようにすべき。代議士、地方の原子力関係者、マスコミなどに「見てくれ」という口コミによるお願いをする事が効果がある。

     提案がある。「国益とは何か」を議論すべきなどという事について、首相官邸のホームページに意見を出す事が効果があるのではないか。
今日の討議で出た様な意見をこのホームページに数多く出さぬとこの種の問題は取り上げてくれない。もし取り上げられたら、多くの人の目にも入るし、それが良い効果を生むと思う。

     バラエテイに富んだ意見を言う集団であると言う事を広めるべき。バラエテイがあるところに意味がある。

 

 

 

 

 

日時:平成14年12月18日(水) 14:00〜17:00

出席者:敬称略、順不同)池亀亮、荒井利治、澤井定、土井彰、益田恭尚、天野牧男、

            石井正則、松永一郎、岩井正三、阿部進、小松原英雄、松岡強、

            松田泰、石井亨、加藤洋明、石川迪夫、水町渉、小川博己、林勉

座長(文責):阿部進