原子力発電所は、人間の老齢化と同様、使用年数とともに高経年化し、部品・機器・設備の機能・性能が低下する。その原因は、腐食、疲労、脆化、割れ、放射線照射損傷、クリープ、フレッテイング、固着、絶縁不良、酸化などがある。
一般的に、人間は傷ついた体の一部を交換し、その機能・性能を元に戻すことができないが、原子力発電所は、高経年化した部品・機器・設備やソフトウエアを交換し、その機能・性能を新品同様にすることができる。しかし、部品・機器・設備には、技術や経済性などの観点から交換が困難、あるいはできないものがあり、また、使用年数とともに点検保守・補修などの維持費が増加する。
機器・設備の機能・性能に対する初期の安全余裕は、設計使用年数による高経年化を考慮しても、それぞれ定められた使用許容値を下回らないように設定されている。人間の余寿命は現在から死亡するまでの期間を示すが、原子力発電所の機器・設備の余寿命は、現在からそれぞれ定められた使用許容値に到達する期間を意味している。
機器・設備に設定された初期の安全余裕は使用年数とともに下がり、その機能・性能は次第に使用許容値に近づいてくる。そして、設計仕様、使用前検査・定期検査・供用期間中検査などのデータ、運転履歴・環境条件、保守・補修の記録などをもとに、現在から使用許容値に到達する期間を評価する。これが機器・設備の「余寿命評価」で、機器・設備の高経年化対策などに反映している。原子力発電所の余寿命は、この「余寿命評価」に加え、技術や経済性などの観点から交換できない機器・設備の「余寿命評価」、および点検保守・補修・などの維持費が経済的に引き合わなくなる時期の予測などを総合して評価される。(澤井 定)
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