「エネルギー問題に発言する会」座談会記録

『高経年化とは何か?』

 

1.座談会の趣旨

  司会浜岡問題の報道を契機に、高経年化問題が急速にクローズアップされてきました。当事者として高経年化問題に直接携わって来られ、或は大学や研究者として、専門的な知見を持っておられる会員の皆さんがお集まりなので、高経年化問題について、どうしたら一般市民の理解が得られるかという視点から、自由に発言をお願いします。

 

2.高経年化とは何か?

  司会: 我々は高経年化という言葉を使い慣れていますが、この表現そのものにも批判があるようなので、先ずその辺りから伺いたいと思います。

  メーカOB C: よく友人に“高経年化対策とはなんですか”と聞かれます。原子力だけが高経年化対策という分りずらい言葉を使うことに、当事者としても若干の抵抗があります。この表現に、一般社会は反発を感じているのではないでしょうか。“国や電力会社は高経年化と言っているが、実態は老朽化ではないか”というのがマスコミの論調のようですね。

  メーカOB A: 老朽化という言葉を広辞苑で調べますと、“年をとって役に立たなくなる”という定義です。この意味から云うと、老朽化という言葉は不適当かと思います。役に立たなくなるところは、安全性に対して問題ないところだと説明するべきではないでしょうか。 その意味から云うと老朽化という言葉は適当ではない

  メーカOB I: なんだかんだ言っても老朽化ということは否定しえないと思いますよ。 まずスタートのところで、それを認めなければいけないと思います。変に高経年化なんて言葉で飾らないほうが、ストレートに共感を呼ぶのではないでしょうか。次のステップとして、“老朽化する、だからどうするか”、ここで初めて高経年化の対策というのが出てきます。

  メーカOB D: 高経年化というのは単なる経時現象で、本当は“高経年化による劣化”と言わなければいけないと思います。プルサーマルなんて原子力屋が作った変な言葉もありますが、火力プラントで高経年化対策なんて言葉は使っていません。

  元大学教授 I:平成4年頃に原発立地県のさる知事から、“原子力発電所が完成して15年も経つと、地元へのお金も入らなくなってくる。古くなった原子炉は取り替えてくれ”という話が国に持ち込まれました。 通産省は、老朽化対策の検討をしたいと提案してきたが、原子力発電所はもっと長く使えますし、ネガティブな表現は良くない、プラント寿命についても誤解を避けるという意味から考え出した表現だったと記憶しています。

  出席者 M: 米国原子力規制委員会(NRC)では単純にエイジングですね。エイジングの対策は、結論的にはレッスンラーンドしかないというのが彼等のポジションです。

 

3.どの様な高経年化対策がとられたか?

  司会: それではそろそろ本題に入りたいと思います。国や電力会社がどのような高経年化対策をとって来たかについては、自らそれに対応してこられた皆さんですが、それぞれの立場で皆さんはどの様に捉えて居られるかを伺いたいと思います。念のため復習の意味を兼ねて、その取り掛かりと高経年化対策の概略をおさらい願えませんか。

  元大学教授 I: 商用原子力発電所が営業運転を開始してから30年弱を経過して、高経年化についての関心が高まり、総合エネルギー調査会でもその対応の重要性が指摘されました。

    これを受けて平成5年、通産省に高経年化対策検討会が設置され、基本的な方針が固まるまで多面的な検討と議論を重ねました。この考え方に添って安全上重要な機器及び構築物を選び、高経年化の具体的なチェックが始まりました。   

  出席者 A: いまご紹介のあった国の「高経年化に関する基本的な考え方」が平成8年4月に纏り、これに従って運転開始後約30年を経過する高経年化プラント(敦賀1号機、美浜1号機、福島第一1号機)に関して、電力会社は平成11年2月、「高経年化対策技術評価報告書」を国に提出しました。更に平成13年度には、運転開始後30年を間もなく迎える美浜2号機、福島第一2号機に関して、高経年化対策の検討を含む「定期安全レビュー」を国に提出しました。

    各電力会社はその報告書やレビューの中で、技術評価の対象とした安全上および運転継続上の重要な機器、例えば原子炉圧力容器、内部構造物、蒸気発生器、一次冷却水配管機器などの主要機器に対して、減肉割れ材料劣化絶縁低下などの経年変化事象について、60年間の運転継続を想定して技術評価を行いました。併せて、高経年化に対応するための新たな保全策を講じた長期保全計画などを策定しました。これらの対策はその後の定期検査や自主検査など保全活動を充実して確認することになっています。この結果、前述の5プラントは何れも健全性が維持され、安全に運転を継続することが可能であると結論付けました。

      それ以降、約10年毎に行われる定期安全レビューでは、安全上重要な機器の経年変化事象に関して、技術的な再評価を定期的に実施すると共に、長期保全計画の見直しを行うことになっています。これら総合評価に基づく適切な保全を行うことにより、プラントの健全性をより確実にし、安全に運転することが可能であると報告しています。

  メーカOB I: 高経年化の対策としては、高経年化プラントを60年間稼動させるための「長寿命化対策」と、「健全性確保対策」の双方を、高経年化対策と一括して言っていますが、「長寿命化」と「健全性確保対策」とは、明確に仕分けするべきだと思います。当事者の間でもいろいろな見方がありますが、一緒に取り扱うのは一般市民には分かりづらいと思います。 高経年化対策として機器の物理的寿命を追い求める長寿命化対策が表に出過ぎています。日々の健全性確保対策の積み重ねが高経年化対策になることを、もっと一般市民に説明すべきではないでしょうか?

  研究所OB S: 原子力プラントの定期検査では、次回までの安全運転を目指して、短期の健全性確保のプラント保全が実施されますが、併せて高経年化対策の工事も実施しています。定期検査では余寿命評価安全評価を実施し、これに基き必要な保守と予防保全対策を実施して、余寿命の延長を図ります。プラントの運転中は、異常を予兆段階で検出することに努めています。 異常兆候の軽微な故障でも、マスコミは“原発事故”と徒に騒ぎ立てるが、“予防保全機能が働いて兆候を的確に検出した”と、冷静な報道をして欲しいものです。

  メーカOB I: 「高経年化に関する基本的な考え方」を改めて見直すと、市民感覚では、国が検査をするから大丈夫だという“お上の姿勢”が感じられるのは、屈折した見方でしょうか。

  メーカOB G: 高経年化対策については“国がこの様に指導し、電力会社はこの通り着実に実施していますから、国民の皆さんは安心して下さい”と、市民感覚で理解を求めるという姿勢は乏しそうですね。電力会社とメーカ側も、技術評価の報告書や資料の作成に際して、一般市民がそれを読んで理解し、安心して貰うという意識がどれほどあったかとなると、これも反省させられます。その辺りも、今回の座談会の基本的な視点になるのではないかと思います。

 

4.高経年化プラントの信頼性、安全性は大丈夫か?

  司会: この様な高経年化対策が取られた結果として、プラントの信頼性は確保され、安全性は維持されたのでしょうか?

  メーカOB D: 原子炉に限らず機械は古くなれば、総合的には信頼性が落ちると考えるべきです。部品を取り替えれば信頼性が回復するというのは、発想が間違っていて“部品を新しく取り替えればその部分の信頼性は回復するが、プラント全体の信頼性は回復しない。しかし、決められたレベル以上に維持されているから安全だ”ということでしょう。信頼性が落ちる速度あるいは勾配を、取替えや点検によって緩和するという概念が、「高経年化に関する基本的な考え方」に伺えないのは、如何なものでしょう。

  メーカOB A: 一般市民に説明するには、今のような立場で話さないと理解しても貰えないかもしれませんね。新車と中古車を比べますと、部品を取り替えても、何となく新車よりは落ちる気がします。 原子炉もどんどん改良されていますが、古い炉でいくら部品を取り替えても、新型の炉と同じにはならないという発想で、“高経年化による劣化”というものを、定量的、確率論的に説明しないと、理解されないのではないでしょうか。

  メーカOB K: 一般論としては、取替え等で信頼性を上げるということだと思いますが、プラントを総合的に見るとどうでしょうか。安全に係るのか、安定運転に係るのかを仕分けして、絶対に守らなければいけない信頼性はどこで、管理限界はどこか、その管理限界に対してどうかという論理展開をするべきだと思います。しかし、あまりにも技術論に過ぎる説明は、一般市民向けには馴染まないことも配慮する必要がありそうですね。

  元大学教授 I: 今のお話は、これまで議論したことのないお話で参考になりました。今の議論と、リスクインフォームドレギュレーション(RIR)との関係は少し違うように感じますが、どのようにお考えですか。 我々は純技術的なところばかり追いかけてきたと反省しますが、RIRと高経年化の問題をどう説明するかという点も、考えて頂きたい。

  メーカOB I: 例えば蒸気発生器の取替えを考えますと、性能も信頼性も上がったものに取り替えたわけですから、当然プラント信頼性・安全性は高くなりますね。一般的には先ほどの機器を取り替えて部分的に信頼度が上がっても、プラント全体の信頼性は落ちていくとの考えに頷けるところもありますが、現実には必ずしもそうだとは云えないかと思います。

  出席者 A: 取替えにより信頼性を上げることは、定性的には理解できますが、プラント全体でどの程度信頼性を上げているか、なかなか理解しにくいと思います。アメリカではRIRの考え方を安全性評価に入れて、定量的に評価していますが、一般市民にはリスクという考え方を理解していただくには、まだ時間がかかるのではないかと思います。このような考えが受容れられれば、各部品の故障率など、どの様なデータベースを使うか検討の余地はありますが、高経年化の問題を定量的に説明する一つの方法ではないでしょうか。

  出席者 M改良標準化の、前後のプラント稼働率を評価しますと、古いプラントは稼働率が低いですね。信頼性が下がってきているのではなくて、初期段階での信頼性を新しいプラントと比べたものですが、これを老朽化という概念で括るのは無理がありますね。

  司会: 高経年化プラントの信頼性と安全性との相関は、どの様に考えるべきものでしょう?

  出席者 O: 老朽化の問題というのは、本質的には信頼性の問題だと思います。信頼性と安全性という概念を、本来は明確に分けるべきですが、最近は混同しているようです。故障が発生し、部品が壊れることは、そのまま安全が損なわれるという話ではないはずです。  原子力プラントの安全性とは、大きな放射線事故から一般市民を守ることです。人間が係わることですから、トラブルをゼロにすることは不可能ですので、トラブルが発生しても安全性を確保するための、各種の工夫が設計に盛り込まれています。 原子炉格納容器やECCS等の施設や系統、または安全系の多重化や多様化の概念などが具体例です。個々の機器や系統の信頼性には限界があるため、重要な系統の信頼性をシステムとして高めておく設計を採用しています。使用年数に従って機器の信頼性は低下しますが、これを回復するために高経年化対策がなされるもので、安全性に係わるものでは無いという、原点に立ち戻る必要があると考えます。

  メーカOB I: 安全とトラブルは土俵が違うということを、これまで公の場で明確に発言してこなかった。

       ですから、一つの土俵の中で“安全です”と言っても、“トラブルが起きているのだから安全ではない”と社会は受容れませんよね。老朽化とは何か?プラントの長寿命化とは何か? プラント全体や個々の機器の寿命に関係する老朽化の原因は、腐食や疲労と言うレベルの問題になると思いますが、安全性と信頼性の絡み、トラブルとの拘りなどを併せて整理し、何が説明不足かを見直して、コンセンサスを作ることが第一歩ではないでしょうか。

  電力OB I: 一般市民の認識は、水漏れが起こればやがて大きくなり、大事故に繋がるのではと、人間の老化となぞらえて考えます。しかし機械は人間と違いますよね。老朽化した部分は取替えが効く。“原子力プラントの安全性は、システム的に別に担保されていて、一つが壊れても大丈夫だ”と、こう言う話をして理解して貰わないと駄目だと思いますね。

  メーカOB B: 話のポイントが変わって恐縮ですが、技術的なことで2つの気懸りがあります。1つはPWRの中性子照射による脆化の問題で、60年運転を考えても十分大丈夫なのかということです。アメリカではかなり物騒な炉があると聞いていますが。

  メーカOB I: 初期の炉では、材料もあまり良くありませんでした。評価式も少しずつ変わってきていますが、それでも60年は耐えられると評価されています。

  メーカOB B: 2つ目は地震のクライテリアです。浜岡では、その後の見解としてもっと大きな地震があるのではないかという指摘がありますが、技術的に説明できる状態になっているのでしょうか。 “何をやっても地震に耐えられないのでは?”と疑問視されても、充分に説明できるようにしておく必要があります。地震では建物の少々の崩れや、変形があっても破壊が起こらなければ良いという、評価があってもいいと考えますが如何でしょう。

  出席者 M: 耐震設計審査指針は、原子力安全委員会の原子力安全基準専門部会で審議していますので、早く決めて下さいとお願いしていますが、もう少し時間がかかりそうですね。 原子力の実力は十分ですが、入力スペクトルをどう取るかが議論されています。 それと新基準の古いプラントへの反映(バックフィティング)の問題ですが、アメリカでは明確に定義されています。 その時点の最高レベルでやったのだからそれで良い、バックフィッティングは経済的な効果を見て、直すなら直しなさいと割り切っています。ところが日本ではそうはいかない。

  メーカOB B: 一般の建物は、日本でもアメリカと同じ考えでやっています。原子力だけがなぜそうはいかないのか、そこをどの様に一般市民に説明するかも難しいですね。

  司会: 東京新聞では、浜岡1,2号機の耐震設計に対する記事で、耐震設計審査指針そのものに疑問を投げかけていますね。耐震の問題も高経年化の問題にしても、余りに技術的すぎて、一般市民にどうやって理解してもらうかという点が難しいですね。

  出席者 M: あれは、昨年の鳥取西部の地震で、活断層が見つかっていないにも拘らず、神戸地震の後に、地震規模がM7と想定を越えたことがきっかけです。

  メーカOB M: 耐震の問題では特に、それぞれの専門家が自分の領域で余裕を見込みますので、それぞれの余裕が累積されて、安全係数が大きくなり過ぎているのも問題です。

  出席者 M: バックフィティングの評価で、塑性域であっても原子炉は大丈夫だということに、関係者の皆さんは自信を持っていますが、今の日本ではそこのクライテリアが設定されていないことも、技術行政上の問題の一つですね。 

 

5.高経年化対策は一般市民に正しく説明されているか?

  司会: 高経年化対策がとられた結果、古いプラントであっても信頼性は確保され、揺るぎない安全性が維持されていることに、皆さんは自信をお持ちのようです。一方、これまでの発言を伺ってきますと、情報公開のあり方、説明のあり方にいろいろな問題が潜んでいるようです。 国や電力会社の高経年化対策への取り組みは、どのように公開されているのでしょうか。一般市民は、新聞報道くらいしか知らないのではないかと思われますが、如何でしょうか。

  出席者 A: NUPEC(http://www.nupec.or.jp/)の情報公開コーナにもレポートは置いてありますし、原子力安全・保安院のホームページ(http://www.nisa.meti.go.jp/)、高経年化技術センターのホームページ(http://www.plec.jp/)でも見ることが出来ます。

  司会: 新聞記事を読みますと、記者の皆さんはそれらをご存知のようですが、メディアは国や電力会社の高経年化対策への取り組みを紹介しませんし、代弁もしてくれませんよね。

  出席者 O: 原子力発電所は、寿命の異なる機器や設備によって構成されているので、長期保全計画では、寿命の区分けをして整斉と対応してきました。定期検査毎に取り替えることを前提に検査すべきもの、2〜3年毎に検査すべきもの、あるいは5年サイクルで良いもの等、実務担当がベースとしている考え方を、一般市民に説明してはどうでしょうか。 家庭の電球はだいたい一年で寿命がきますが、誰も問題にしません。そのようなものと認識しています。一般的には故障が発生してから修理をする事後保全ですが、原子力では予防保全対策が原則です。その違いの説明も必要ですね。

  メーカOB I: 老朽化といっている一般市民に向けて、“安全系に係るのものには予防保全ができています”という説明が、どれだけ効果があるだろうか。“予防保全をするに際しては、例えば亀裂の兆候が発生した時、すぐ取り替える場合もあるし、評価の結果3年後に修理すれば良い場合もある。その間はモニタリングしながらやっていきます。こういうものが経年劣化対策です”と説明していくべきではないでしょうか。

  メーカOB A: 一般市民には、人間の体で起こっていることで説明するのが、解り易いのではないかと思いますね。何が何でも切れば良いのではなくて、サッカーの小野選手のように薬で散すという方法もあるわけで、その人の体質と状況を見ながら手を打ちますよね。クラックだって進展速度というものがあるのだし、それを監視する技術でも、日本は世界にもトップクラスです。老朽化というかもしれませんが、年を取って一病を持った人でも、長生きのための個性と、養生の仕方がありますよという説明をするべきだと思います。

  司会: 公開のあり方、説明の仕方がなかなか難しいですが、国や電力会社が実施した高経年化対策の評価報告書も今のままではなく、一般向けにより分かり易く作り直さないと、メディアや一般市民には解って貰えないのではないでしょうか。

  電力OB S:高経年化対策のパート1で“運転開始後30年前後のプラントに対して、代表的な主要機器の健全性を評価して60年程度の運転でも問題はない”とか、またパート2では“安全機能を有する対象機器全部に対して、長期保全計画に基づき定期検査毎にきちんと対応すれば、60年の運転期間でも信頼性は大丈夫ですよ”と言うことを纏め、報告書を公開しました。しかし、残念ながら現実的には殆ど誰もそれを見にきませんでした。

   電力会社としては、一般市民に対して“原子力の必要性や、プルサーマルの必要性”など、もっと基本的な説明が必要だと考えています。“プラントをどう運転するのか”とか、“どうメンテナンスするのか”に関しては殆ど説明していません。現時点では高経年化について地元に説明する段階ではないという会社もあります。その前にやることがあると言う認識だと思います。

   電力会社としては“長期保全計画をどう策定するか”と言う中で、寿命や高経年化や定検のあり方を検討しています。予防保全にするか事後保全にするかについては、一般市民には誤解され易い面があります。 例えば、“予防保全は金が掛かるから事後保全にするのか”とか、“事後保全で、物が壊れるまで放って置くのか、壊れたら直せば良いと言うのか”等と直ぐ言われます。 我々の考えている事後保全とは、発電所の安全性や信頼性の観点から、重要度の低い機器に限定して適用するものですが、所員の巡視点検等により運転状況を監視しながら状況を見極めて、必要な時に直しています。 単に不具合を放置して損傷に至らしめるのではなく、Patrol Based Maintenance ( PBM )として長期保全計画の中でも位置づけて実施するものです。 
メーカOB A:広報のあり方については、メーカ側の我々は良く分かりませんが、“国はこの様に業界を監督しています”とか、“電力会社はこの通りやっています”と言うことを公表するだけでなく、もっと一般市民に分かり易い説明が必要なのではないでしょうか。

  メーカOB B: 経済産業省の広報誌の“高経年化対策”のところを見ても、確かにこの内容では一般市民は理解出来ませんね。自動車を例にとれば、古くなっても車検などにより、部品さえ適当に交換すれば、充分に使えています。高経年化対策についても、それが何であるかを知らせることが第一歩だと思います。 広報の仕方を変えないと駄目なのではないでしょうか。 

  司会: 浜岡問題ではマスメディアの取上げ方が、聊か煽動的と思われる報道もありましたが、技術的な問題もいろいろ指摘されています。その辺りについてはどうでしょうか?

  メーカOB M: 古いプラントでは、改良による信頼性の向上が徹底的に検討されました。浜岡の1インチ配管の漏れでも、振動の多いところは突合せ溶接に変えてきたのに、まだあんなところにソケット溶接が残っていたのかと残念に思いました。

  メーカOB B: 蒸気発生器の話でも出ましたが、経験上直すべきところは突合せ溶接にする等、適正な改良をすれば、ある意味で前より良くなる可能性もあります。

  メーカOB M: 小口径配管については、かなりそのようなことをやりました。 だから今回のトラブルが発生した時“あれはチェックから落ちたな”と思いました。

  出席者 P: 当時の配管設計では、2インチ半以下の配管はソケット溶接が常識でし        たし、社会的にも受容れられていました。小口径配管の自動溶接が進歩して、必要な個所に突合せ溶接を採用出来るようになったのは、その後のことです。

  メーカOB M: 小口径配管の溶接は、今でも全部が突合せ溶接ではありません。振動のない個所ではソケット溶接を採用しています。それなのになぜ浜岡ではと言われれば、あの系統はあまり運転していなかったから分からなかったと言うことになるのでしょうか。

  出席者 O: 一滴も漏洩してはならないと言うのは論外ですよね。原発の安全は別のロジックで担保されていることを、一般の人に知って貰う必要があります。あの程度のトラブルに対しては、我々が外部から応援することも大切ですね。

  メーカOB K: 保安院が出来ましたが、もっと、きちっと言うべきだと思いますね。浜岡2号機の今回のトラブルは、プラントの安全にはかすり傷にもならないトラブルです。

  研究所OB Sトラブルの国際評価尺度は0から7ですが、日本で問題になっているのは、0のプラスかマイナスです。国際評価尺度との落差を、はっきり説明すべきだと思います。

  司会: 米国NRCの規制は、ASMEの“プラント供用中の検査・評価基準”、いわゆる“維持基準”を取り入れて、法的な位置付けを与えています。 先ほどご指摘のRIRについては、使用中に不具合が発生した場合、リスクを伴うが何処までであれば許容できるかという、現実的な基準を採用しています。プラントの安全には係らない不具合でも、プラントを停止して、直ちに補修しないと運転を許さないというのではなく、安全性に係るか否かを適切に評価し、状態監視をしつつ継続使用を認めるという規制のあり方が、我国では強く求められています。

  大学教授 S: 名医は、良性の腫瘍か悪性の癌かを見極め、内科治療か外科手術が必要かを判断するための、明確なノウハウ、即ち基準を持っています。これが大切だと思います。

  元大学教授 I: NRCがRIRの考え方を採用し、これに呼応して原子力発電所のマネージメントも変わり、米国の原発は好成績に転換しました。相乗効果として、一般社会の原子力に対する受容性も、信頼感も更にアップしたようです。日本のマスコミは、小口径配管から漏れたら直ちに原発を止めろと主張して騒ぎますが、マスコミにあの程度のトラブルが、本当に安全上問題だと考えているのか問い詰めたら、彼らは黙ってしまいました。

  メーカOB G: 維持基準の制定は、単に技術的な判断基準を設定するだけでなく、一般市民にとっても安心の拠り所を明確にするという、大きな社会的効果があることを忘れてはいけません。 米国では社会的な受容性にも大きな変化が見られますが、スリーマイル原発の事故からの、時間的風化だけでなく、ASMEが学術的に明確な判断基準を設定し、NRCがこれに法的根拠を与えたという点も、米国民はキチンと見ているのではないでしょうか。

 

6.一般市民は理解し、受容れているか?

  司会: これまでは、どちらかと言うと当事者側の視点から議論を進めてきましたが、翻って、一般市民の皆さんは正しく理解しているのでしょうか?我々と一般市民の間の認識に落差はないか? 一般市民の安心感とは何か? そして、メディア対応はどうあるべきか? などに視点を絞って発言をお願いします。

  メーカOB B: 物が壊れるということは当然ありうることであって、あるレベルのものは社会的に受容れてもらわないと、全てのものは成り立ちません。我々の家でも同じで、電球なんかは時々切れるわけで、まして、原子力発電所は色々な機器の組合せですから、故障の発生は避けられません。 そのようなところが整理できないといけないと思います。

  メーカOB K2月のフォーラムで、木村青森県知事と石原都知事の話でも、石原さんは、“機械だから壊れるのは当たり前で、重大な事故にならなければ直せばよい”と言っていました。  木村さんはそれに対して、“それは絶対に許されない”と反論していました。 実際に原子力施設を持っている自治体の長と、持っていない自治体の長では、持つと木村さんの発言ようになるのかもしれません。木村さんも個人としてのご意見は別だと思いますが、知事としての公式発言はそうなっています。そうなると県民も同調しますので、そのような人たちに対して、この議論をどうやって説明していくか、これは並大抵のことではないと思うわけです。

  元大学教授 I: 自治体に関連しますが、高経年化技術検討委員会には自治体の役人にせっかく参加して貰いましたが、我々が議論しているようなことを何もご存知ないので、ことが起こると大騒ぎになります。  自治体への説明役の機能も負って貰えるよう、高経年化技術センターとしても更に工夫して欲しいと思います。 知事とか、市町村長から辞令をもらっているのですから、自治体の代表として“コメントを出して欲しい”とか、“説明会を企画して欲しい”とか、具体的なことで協力して貰ったらどうかと思っています。

  出席者 A: 立地自治体の人に委員会へ参加願ったということは、ある意味では画期的なことです。あの方たちには積極的に活動して頂き、地元に対する太いパイプ役にもなって貰いたいと期待していますので、その様な方向で働きかけて行きます。

  メーカOB K: 自治体の立場、第三者として説明の仲立ちの出来る人が居れば、心強いですね。国や電力会社がやったことは確かに公開されているが、どの程度分りやすく説明されているかという点では、先ほどの電力さんの立場からの発言が気にかかります。一般市民は、安全性云々ではなく、枝管の1本が漏れていることを問題にしています。  老朽化だと言う彼等に対して、高経年化は老朽化ではないが、一歩退いてそれを認めるにしても、どうしたら彼等と同じ視点に立てるかというところが、非常に難しい問題であると思います。

  官庁OB M: 今の様な話は、昔から悩んできた問題ですよね。この問題は非常に日本的な問題のような気がします。 国際的に見ると、そんなことは社会的に認めています。そうだとすると、日本はずっとこのままで良いのか、変えられる要素が有るのかと言うところが気になります。

  メーカOB K: 日本でも原子力以外は、そのようなセンスですね。 新幹線でも何かあれば自動的に止まるが、あれだけ高速でも大事故を起していないので、皆さんはそれを受容れて乗っています。 ところが原子力は枝管の漏れでも“あれは危ないから止まった”となります。 原子力に対して日本人はどうしてこれほど、がらりと変わってしまうのか不思議です。

  メーカOB B: 同感ですね。 自動車の事故による1年間の物的損害は4兆2000億円です。ほぼ1万人の人 が亡くなっています。ところが、小さな1インチの配管から水が漏れたら、大騒ぎをしてプラントを止めさせ、運転を許さないというのは、非常にナンセンスですよ。ここを何とか打開して理解して貰らわないと、物凄い経済的な損失です。“この程度のことは些細なことだ”と片付けられるようなイメージを、一般市民に持って貰わないといけませんね。

  メーカOB A: しかし人間の考え方を、速効的に変える方法はありませんよね。“もっと根気強く、易しい言葉で語りかければ何とかなるのではないか”とか、“我々に任せて貰えれば”と言う自負心もありましたが、それが仇になっていないかと反省しています。 これからどうするのか? 若い人、特に子供の時から、科学的にきちんと理解する癖をつけさせていく以外に、手段はないと思うのですがどうでしょうか。

  大学教授 S: “それを待っておれるか”と言う意見もありますが、結局は一番早道でしょう。文部科学省も総合教育の試みをやっていますが、これに並行して語りかけていくしかないのかな。

  出席者 A: いくら安全だと説明しても、一般市民は安心ベースで考えていますね。“安全だということは分るが、たとえ1滴でも漏れたら心配だ。安心できない”という発想です。その辺のギャップを埋めることが大事だと思います。

  メーカOB G: 安心とは何か、心配とは何か?これまでの対応で何が欠けていたかを反省することが、改めて強く求められているようですね。“安全だとは分かるが、一滴でも漏れたら心配だ”というのは、“小さな漏れがやがては大きな事故に繋がりはしないか?”と云う不安。それと“一つ一つは理解出来ても、総合的な絡み合いが良く分からない。納得できる安心感が得られない”という、苛立ちの裏返しの表現ではないでしょうか。

  出席者 P: これまでの事故対応でも、膝を突き合わせてどこまで説明してきたか?本当に納得して貰うまで説明してきたかについては、疑問ですね。最も身近な妻や家族の率直な反応が、どうやら反省材料に出来そうですね。

  メーカOB M: 一般市民に説明すべき点は、“我々は長年経験を積んできた結果、経年的に劣化する所はどのような所か、相当はっきり分ってきました。そのような所は先手を打って直しています”ということです。“1インチのドレン配管でも、振動の大きいところは今までの経験から、突合せ溶接に改善しましたが、プラントの運転中は冷却水が流れず、振動もないところで安心していましたが、検討が足りませんでした”と、謙虚な反省も大切ではないでしょうか。

  メーカOB I: 国や電力会社のやってきたことを、もっと分り易く伝えることが大事だとの指摘がありましたが、それを伝えても、「高経年化に関する基本的な考え方」について触れたように、却って逃げの表現になる側面もあります。 そこへの配慮が必要かと考えていましたが、今のような説明を加えると、かなり一般市民の考えに近づきますね。

  司会: 浜岡問題に関する新聞の論調を見ますと、老朽化と断じて煽動的な記事も目立ちます。原子力のトラブルが大げさに報道されるのは、マスコミの商業主義による側面もあると考えられますが、一般市民に対する最も身近な情報源であることを重視しますと、マスコミ対応の在り方を考え直すべきかと考えられますが、如何ですか?

  出席者 Q: メディア対応は一つの分野ですが、先ず一般市民に理解して貰うのが肝心です。

  メーカOB G: マスメディアの持つ影響力は、計り知れないものがあります。この潜在的な力を如何に上手く利用して、一般市民に訴えるかが鍵ではないでしょうか。

  研究所OB S: 妻や親戚に高経年化の議論を試みましたが、なかなか大変です。一方、メディア報道は強烈な第一印象を与えますよね。その点からも大切なのは、メディアがどう理解して、報道するかですね。彼らに理解して貰えないと、一般市民は理解できません。家庭のガス点検でも、点検して貰えば主婦は安心します。 原子力もそう言う肌で感じられる安心感を、身近なメディアを通じて伝える工夫が、特に大切ですね。

  元大学教授 I: 確かに分かるのは、せいぜい勉強している自治体の人か、メディアの科学部の記者ぐらいだと思いますね。この会が出来てから何人かのメディアの記者が、我々のホームページを見ていますが、メディアの記者とは付き合うのにもテクニックが要りますよ。

  出席者 A: 一般の人に説明しても、メディアの報道を信じきっていることが多いですね。まずメディアの人の理解を得ることが大切だと思います。

  元大学教授 I: マスメディアの記者は、なかなか理解しようとしないところもありますがね。

  電力OB I: 電力の供給が止まればどうなるか、停電したらどうするのかと言うところから議論を始めないと、駄目だと思いますね。メンテナンスをどうしていると説明しても、一般市民は聞こうとしません。切実な問題に置きかえて説明をしないと、駄目ですね。

 

7.「エネルギー問題に発言する会」として何が出来るか? 何が課題か?

  司会: それでは座談会の締め括りとして、我々に何が出来るか? 何が課題かについて、皆さんの率直な意見をお聞かせ頂きたいと思います。

  元大学教授 I: この高経年化問題に関しても、会員の発言をホームページで一般市民に訴え、議論が出来ればかなり大きいインパクトだと思います。技術者としては当たり前と思っていることが、一般市民と議論すれば抜けていることが見えてきます。そのような視点で高経年化対策を見直し、抜けがないかを見直すことが、我々の第一歩ではないだろうか。例えば錆とか疲労、応力腐食割れや電気品の劣化などはどうなっていて、どの様に対処してきたかを説明し、未知のことは何かを我々の中で検討し、ホームページで意見を発信しませんか。

  電力OB I: 先ほども、“一滴でも漏れたら心配だ”との声が紹介されたが、火力ではそんな声は聞かれません。 安全性、信頼性を人体に例えて説明することや、色々と意見が出ましたが、そう言うことこそ我々のやるべきことではないでしょうか。役所では出来ないことですよ。

  出席者 M: 東電の再循環ポンプ事故の時、米国NRCは、単なるポンプのトラブルとして扱っていました。 我が国で3年間も、もたもたしているのを見て、“安全系でもないのに日本は何をしているのか”と言われました。この会はもっと明快に発言すべきだと思いますね。 浜岡のドレン配管漏れなども、何の問題があるのかと発言して良いと思います。

  司会: 「エネルギー問題」や「環境問題」に付いては、個人的意見でも会のホームページに載せることが、それなりに意味がありますが、「高経年化問題」については国や電力会社、あるいはメーカに対して我々は率直に提言をすべきだとの考えもありますが、如何でしょうか。

  メーカOB M: 我々に何が出来るのかが一番大切だと考えます。提言ではなく、足りないものを指摘して、それを我々がやるのが良いと思います。我々の経験と知見を活かして、一般市民に分かり易く説明するのが、我々の課題だと考えます。

  元大学教授 I: 国と電力会社がやってきた高経年化対策を、広い視点で再レビューしてはどうですか。 例えば「なじみ」とはどう言うものなのかとか、高経年化に関係するが、国や電力会社の報告には入っていないことを、分かり易く説明するとか。

  司会: 確認ですが、国や電力会社の高経年化対策が、充分ではないと言う認識ですか?

  元大学教授 I: やってはきたが、一般市民が知らないと言う意味で、充分でないと思いますね。

  メーカOB A: 今までこう言うことをやってきたが、トラブルが起こってしまったと反省を入れて、例えば足らなかった点は、こう言うことであったと説明するのも良いのですね。

  メーカOB K: マスコミはいま浜岡を攻撃しています。世間で言っている程、原子力は本当にお粗末なのかと言うことから始めないと、駄目ではないだろうか。高経年化対策について彼等の説明で落ちているものを、どう説明するかが大切です。かなりなことをやってはきたが、一般市民には分かって貰っていません。反省も入れて分かり易く、ホームページで訴えて行くことが大切なのではないだろうか。

  メーカOB S: 高経年化問題を座談会形式で扱うのはかなり難しいテーマですよね。検討会のような場で充分に論議して、その結果を提案するのが相応しいようにも思われますが。

  元大学教授 I: 同感ですね。 我々には材料がありますから、技術者として高経年化対策を見直して、何か欠点がないかを検討しませんか。例えば司馬遼太郎が書くと、同じような文章でもやはり何か違いますよね。 再レビューして良い意見が出れば直接国に言うとか、対応の仕方は考えられますよね。技術用語の解説や追加の関連テーマなどは、会員で分担しましょう。

  司会: それではこの辺で、我々の課題についてのコンセンサスを纏めたいと思います;

      ・よその力を借りなければならないような提言は、本会としては見合わせる。

      ・座談会での発言をホームページに紹介する。

      ・国および電力会社の高経年化対策に関して検討会を行い、一般市民への解説事項を重点的に抽出する。また意見の取扱いについては後日協議する。

      ・技術用語の解説、座談会の発言補足、関連テーマは会員で分担する。

  出席者一同: 了承

  司会: 貴重なご意見を活発にご発言いただき、有り難う御座いました。

   それでは本日の座談会はこれで終わらせて頂きます。

                                                                                                                     

  開催日:平成14年6月13日、8月21日

  座 長:杉野栄美、小川博巳

  出席者:(敬称略、ABC順)

    阿部進、天野牧男、天野治、安藤博、荒井利治、土井彰、林勉、池亀亮、石井亨、石川迪夫、岩井正三、加藤洋明、小林秀雄、益田恭尚、松田泰、松永一郎、松岡強、水町渉、中島光夫、小笠原秀雄、澤井定、篠田度、篠原義幸、白山新平、高橋英昭、安井元一、(オブザーバ)石川正朗、清水高