5・11 維持基準
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わが国では、原子力発電所の機器の技術基準は現在、設計時や製造時に適用する基準しかなく、運転開始後の機器についての基準は検査しか定められていない。そのため、発電所の機器や装置はいつも「新品同様」の強度や構造が求められる。一方、米国やフランス,ドイツなど原子力発電所を運転中の先進国では、設計・製造時の基準と運転開始後の基準が明確に分かれており、運転開始後に適用するのが維持基準である。欧米の維持基準では、使用する機器にひび割れなどが見つかっても、安全性に係わるか否かを適切に評価し、状態監視をしつつ、安全性に問題がなければ継続使用を認めている。
米国原子力規制局(NRC)の規制では、米国機械学会規格(ASME Code Section XI)の使用を認知しているが、同学会では使用中の検査規格(維持基準)を1971年に制定し、その後1974年に欠陥評価の規定を追加して改訂を重ね今日に至っている。
 米国で維持基準ができた背景は、商業用原子力発電所の運転が本格化し始めた1960年代にさかのぼる。想定していなかった配管損傷などのトラブルが相次いだため、当面運転を継続する、補修や交換をするなどの対応策を規格として定める必要が生じた。安全性に問題がないとされる「評価不要欠陥」の概念が導入され、傷などが一定以下の大きさであれば、欠陥の解析や補修もせずに運転できる。さらに、評価不要欠陥より大きい傷であっても、安全性の面からその機器の運転が許される「許容欠陥」以下であれば、その傷の進展具合を監視しながら評価した期間運転できる。  
わが国でも、1993年ごろ(財)発電設備検査技術協会で維持基準の欠陥評価が審議され、原案が作成された。1998年ごろ(社)日本機械学会で、この原案をもとに維持規格が審議され、2000年5月に日本機械学会規格として発行された。この維持規格を早急にわが国の維持基準として規制に取り入れることが望まれるところである。 (加藤 洋明)